CKから渡部が強烈なヘディングシュート
入場口からピッチへ向かって敷かれたレッドカーペットの上を歩きながら、大谷はレイソルサポーターが陣取るゴール裏のコレオグラフィーに視線を向けた。サポーターの作り出す文字が『LET'S GO KASHIWA』から『LET'S GO ASIA』に変わっていくのが見えた。
試合はガンバのペースで始まった。12年のJ1で17位になり、降格の憂き目を見たガンバだが、数多くのタイトルを取り続けてきたチームの経験値は、決勝の舞台で大いに発揮された。一発勝負のカップ戦決勝だからこそ、序盤の良いリズムの時間帯に一気に畳みかける。大谷はピッチの上でガンバからの圧を感じていた。
ポゼッションで優位に立つガンバはトップ下の遠藤保仁、ダブルボランチの今野泰幸、明神の人が流動的にポジションを取るため、レイソルは守備の狙いを定められなかった。大谷の対面にいる明神は、中盤の底でバランスを取りながら局面ごとに立ち位置を変え、状況に応じたプレーを選択し、付け入る隙を与えてくれない。
9分にはコーナーキックからレアンドロにネットを揺らされたが、オフサイドの判定でノーゴールになった。28分にゴール前に侵入した二川孝広のシュートは、GK菅野孝憲が辛くも食い止めた。
防戦一方の内容に、ネルシーニョは早い決断を下した。水野晃樹に替えて、田中順也を投入。前半32分の交代だった。それまで1トップを務めていた澤昌克がトップ下へ移り、田中が最前線に入った。
「晃樹の問題ではなく、チームとして対応できていなかった。相手のボランチをタイトにマークしながらリズムを作らせない狙いがあったけど、ガンバはスキルのある選手が揃っているので、そこで人を替えて前線の特徴を変えることで、守備のときは澤くんと順也が中盤を助けて、奪ったあとには長い距離を走って相手の背後へ出ていけるようになった」
大谷の解説どおり、前線の特徴を変えることで反撃を試みたレイソルは、ガンバがその対応策を見出す前のわずかな時間帯にワンチャンスを物にする。35分、コーナーキックから渡部博文が強烈なヘディングシュートを突き刺し、劣勢の時間を耐えしのいできたレイソルが先制点を挙げた。