上写真=田中碧は61分から登場して、抜群の安定感で一気に主導権を握った(写真◎小山真司)
■2022年3月29日 FIFAワールドカップ・アジア最終予選・B組第10節(@埼玉スタジアム/観衆44,600人)
日本 1-1 ベトナム
得点:(日)吉田麻也
(ベ)グエン・タイン・ビン
「ヒールでもらってワンツーで抜け出すイメージ」
「僕からはわからなかったんです。終わってから見てみたら、(南野)拓実くんの手に当たってました。しょうがないですね」
70分、田中碧が蹴り込んでついに逆転、と思ったところでVARチェックが入り、オンフィールドレビューを経てゴールは取り消された。
とはいえ、そこに至る展開は目覚ましかった。左サイドバックの中山雄太がアンカーに近い位置に入って相手のクリアを拾って左へ、左ウイングの三笘薫が左インサイドハーフのように内側で受けて中央へ横パス、ボランチの田中がトップ下のような位置でワンタッチで1トップの上田綺世へ、相手からボールを隠しながら右足でシュートを放ち、ゴール前にもぐり込んでいった南野に当たってこぼれたボールを、田中が左足でGKにぶつけながらもゴールに押し込んだ、という流れ。フォーメーション上で当てはめられたオリジナルのポジションにとらわれず、正しいときに正しい場所に立つとはこういうことかと教えられたような、東京オリンピック世代が中心になって見せたビルドアップはお見事だった。
田中はこの日は61分から登場。南野、守田英正と3人同時交代だった。前半の4-3-3のフォーメーションが後半から4-2-3-1になっていて、田中は守田とボランチに並び、南野がトップ下、というのがベースの配置。ただ、実際にピッチに入って相手を見た上で、自分と周りのタスクを決めるのが田中の真骨頂。
「押し込む形になって2ボランチになったとしても一人が余ってしまうので、どちらかが残るようにして、そこは守田くんが多かったので任せました。自分も間に立つときとサイドに出るときと、少し中継に入るところと、その組み合わせを工夫しながら、あとは守田くんがやりたいことを自分が周りに広げていくような感覚でプレーしてたつもりです。サイドから行くのか中央から行くのかの判断を含めて、意識はしてました」
その言葉からはサッカー脳の鋭敏さが伝わってくる。相手が引き込んでいるから、ボランチに2枚が並ぶ効果は少ないと見て、頼れる守田に背中を預ける形で前に出た。その守田がコントロールしたいイメージを増幅させる形でピッチに描いていき、ただ前に出るだけではなく周囲を生かすような黒子に徹した。
そして、自ら勝負に出たのが、あの70分のシーンだったというわけだ。
「綺世に入ってから自分はヒールでもらってワンツーで抜け出すイメージだったんですけと、(シュートを打ったのは)綺世の判断ではあるので、試合が終わってからこっちを見えていたと言っていたから構わないですし、結果として打ってこぼれてきましたから」
ここは自分を生かす一瞬と見定めたワンタッチパスからの裏抜け。5バックで引きこもる相手をどうにか崩そうとする工夫の一つでもあった。
「相手が5枚並んでいて、自分がはがしたのは3(バック)の右だと思うんですけど、その背後を結果的に取った形でした。最終ラインの背後を取ることは常に考えながらやっていて、それがパスで入っていく形でゴールが決まったので、形としても精度に関してもすごく良かったと思います」
結局、ゴールという形では認められなかったが、いろいろな側面で意義深い崩しだったことは、ワールドカップに向けて誇っていいモデルケースだろう。
「どんな相手でも勝つことは前提で、内容も突き詰めなければいけないですし、すごく悔しい結果になったと思います」
突き詰めるべきいい感触をしっかりと脳裏に焼き付けつつ、最終予選を終えた。それは田中が日本の中心として成長していくための戦いの連続でもあった。