名古屋グランパスが、FC東京を崩せなかった。今季開幕3連勝と最高の滑り出しを見せた赤鯱軍団に、第4節で立ちはだかったのがFC東京だ。こちらも2勝1分けと上々のスタート。勝ち点9の名古屋が首位なら、勝ち点7の東京が2位。早くも実現した「首位決戦」を振り返る。

上写真=今オフに東京から名古屋へ移籍していた米本は古巣に敗れ、試合後に悔しさをにじませた(写真◎J.LEAGUE)

■2019年3月17日 J1リーグ第4節
FC東京 1-0 名古屋グランパス
得点:(F)永井謙佑

攻めの技術vs守りの技術

 3月17日の味の素スタジアム。試合前の大方の予想は、攻める名古屋、それを受けて速攻で突き返す東京、だった。ほぼそのとおりの90分となるのだが、結果的に屈したのは名古屋の方。

 スコアは0−1。決勝点は54分に生まれた。東京のMF東慶悟が中盤の左サイド、ハーフウェーライン上で体勢を崩しながらも前線に送り出したボールが、FW永井謙佑の足元に吸い込まれるように届き、そのままゴールへと突き進んでGKランゲラックの右を抜いた。

 名古屋の方は、最後まで東京の壁を割ることはできなかった。

 これまでの3試合ではボールが流れるように回り、風間サッカーの肝である「相手の逆を取る」スタイルで、サガン鳥栖から4点、セレッソ大阪から2点、ガンバ大阪から3点の合計9ゴールを飄々と奪ってきた。まるで、ネットを揺らすのはそんなに難しいことではないんだよ、というかのように。ところがこの試合では、ボールが急に重みを増したかのようにリズムが鈍い。

「一つのパスで解決しようとするプレーが多すぎた」

 風間八宏監督は試合後、いつもと同じように、崩せなかった原因を技術に求めた。

 例えば、長身FWジョーの頭に合わせてボールを何度も供給しながらゴールにならなかったことについては「空中では点で合わせなければいけない。ジョーが見えてはいるのだが合わせられていない」と解説する。認知と判断はOK、でも、その先の技術に成長の余地がある、ということだ。守りきった東京の長谷川健太監督は、特別なジョー対策を施したわけではないという。だが、「(センターバックの)森重もヒョンスも何かを言わなくても分かっていますからね」と、こちらは守備の技術を称賛した。

 ジョーに合わせる技術を求めながら実らなかった名古屋、ジョーに対して時には2人がかりで競りに行って自由を与えなかった東京。2人の監督それぞれの表現からは、攻守の技術という視点で明暗が分かれたという分析が成り立ちそうだ。

憮然としたままだった米本

 試合を振り返って、憮然とした表情が崩れなかった男がいた。米本拓司だ。このオフに東京から名古屋に加わったセンターハーフ。ボール奪取が得意で、その先のパスの正確さと合わせて、名古屋の3連勝の礎になってきた。

 ところが、初めての古巣対決で敗北を食らう。試合の感想を問われて一言、「悔しいです」と絞り出してから視線が中空をさまよったままだ。

「相手が(こちらの最終ラインの)裏を狙っているのは分かっていた。僕がいたときもそれが約束事だった。でも、こちらもやり方を変えないでチャレンジした。だからこそ、あの失点がもったいなかった」

 相手が得意なプレーを押し出してきたのだから、こちらも自分たちの強みを出して粉砕する。強い思いがあったはずだ。だが、崩せなかった。米本もその原因を、風間監督と同じく技術に求めた。

「中をこじ開けていけなかったのが反省点。ブロックを作ってくるチームにも中を崩していかないといけない。外に逃げすぎた。ジョーのところにボールを先に入れすぎた。崩しにいってからジョー、ではなくて、最初からジョーばかり」

 ゴールへの最短距離は真ん中を通っていくことで、そこを崩していくことが最優先、というのが名古屋の、風間監督のスタイルだ。やり方を変えない、と米本が言ったのはこのことで、だから、中央を割っていく技術が足りなかったために外を迂回しようとしたことに、自分自身とチームを叱責するようだった。

 でも、どうして外に逃げたのだろうか。

「ビビってた、のかな…。ボランチもサイドハーフもビビらずにブロックの中で受けないといけなかった。相手はカウンターが得意だから、ビビって行けなかったのか。ビデオを見返してないから、これ以上は分からないけど」

 技術を出す前に判断が間違っていて、さらにその前に、良い判断を促すメンタルが足りなかった。米本の悔恨の弁はそれを示している。

 名古屋が東京を崩せなかった理由。それは「技術の欠如」なのだが、米本がピッチの上で実感したのは、「技術を思う存分に出すためのメンタルが足りなかったこと」なのだった。

 前向きに考えれば、メンタルを立て直すことさえできれば自慢の技術は戻ってくる、と言うこともできる。風間監督も「失望? していませんよ。彼らはまだうまくなる過程にいるんですよ」と、今季初黒星で行く末を不安視する声を笑い飛ばした。

取材◎平澤大輔 写真◎J.LEAGUE


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