上写真=堀米悠斗が「いろいろな人の思いが詰まった」シャーレを手に万感の思い(写真◎小山真司)
「ようやく終わりましたね」
いろんな選手に、いろんなストーリーがあって……。
堀米悠斗が最終節のあとに口にしたのは、そのことだった。アルビレックス新潟のすべての選手に、喜怒哀楽の物語がある。それをまとめ上げてきたのが、このキャプテンだった。
「ようやく終わりましたね。ホッとしています」
10月23日、J2最終節のFC町田ゼルビア戦に2-1で勝ったあとにこぼしたのは、心の言葉だっただろう。5年間のJ2での日々をくぐり抜けて、チームを束ねてついにJ1昇格を果たした。
「チームメートが、オレと(早川)史哉とヨシくん(高木善朗)と、まずは3人でシャーレを掲げてよって言ってくれたところは、ちょっと(涙腺が)危なかったです。いろんな選手にいろんなストーリーがあって、自分たちだけ特別扱いされるのは申し訳ない気持ちもあるけれど、みんなが理解してくれて、3人で掲げられたことはすごく幸せな瞬間でした」
堀米は2017年に当時J1の新潟に加わったその年に、J2降格を経験した。その「J2初年度」の18年に高木が東京ヴェルディからやってきた。そして、ともに大黒柱になった。新潟のアカデミー育ちの早川は、16年にJ1で念願のプロデビューを果たしながら、急性白血病を患い、そこからサバイブして昇格を支えた。それぞれのストーリー。
松橋力蔵監督との関係も、堀米の物語の重要なパートだ。指揮官とキャプテンの信頼感が、チームの礎になった。最終節の後のセレモニーでは、堀米が「新潟最高!」と叫べば、松橋監督が「新潟超最高!」とその上をいくコンビネーション。クールを通してきた松橋監督をも弾けさせるぐらい、J1昇格・J2優勝という果実にはパワーがあったのだ。
「珍しいですよね。リキさんの弾けた笑顔を見てうれしいですし、みんなが尊敬できる監督なので、数日はゆっくり休んでほしいなと。常に引っ張り続けてくれたので、いったんゆっくり休んでほしいと思います」
堀米の物語もすべてが完璧だったわけではなく、例えば最終節の町田戦の90+2分、ビッグチャンスを逃している。三戸舜介がカウンターで右サイドから持ち込んで中央へ、鈴木孝司がスルーして、逆サイドから堀米が中央で受けて狙った。しかし右足にしっかり当たらずに、左に外れていった。足が動かなくなる最終盤に、カウンターで自陣からロングダッシュでゴール前のあの場所まで走り抜けたのは成長の証、しかしシュートは課題。
「自分も最後に大きなチャンスがあったけれど、決められなかったところが、自分たちが甘いところだと思います」
J1昇格とJ2優勝を喜ぶ祝祭的なホーム最終戦の最後の最後に、甘いという事実を再認識したラストシーンは示唆的だ。ただうれしいというだけでは終わらせてもらえない。やるべきことは、まだまだたくさんある。
「いるべき場所に戻ったという感覚がすごく強くて、うれしいですけど、これからだなっていう思いがより強くなりました」
だから、サッカーはやめられない。
取材◎平澤大輔 写真◎小山真司