上写真=伊藤翔は3カ月ぶりの先発だったが、巧みなポジショニングで攻撃をリードした(写真◎J.LEAGUE)
■2022年8月20日 J2第32節(ニッパツ/4,611人)
横浜FC 1-0 岡山
得点者:(横)山下諒也
「縛りや決まりごとがなくても」
5月21日のアルビレックス新潟戦以来、実に3カ月ぶりの先発出場。伊藤翔は久々にキックオフの笛をピッチの上で聞きながら、じっくりと味方と相手を観察していた。
「スタートはうちは2トップだったんです。でも、このシステムで試合をやったことがなかったので、どこに立ったらいいのか、どこにスペースがあるのか、どこにいたら味方が助かるのかを探りながらやっていました」
小川航基が最前線に立ち、長谷川竜也とともにその周辺でボールを引き出した。いわゆる「相手が嫌がるポジショニング」を見つけていったわけだ。ただ、同じことではあるかもしれないが、「味方が助かる」というポジティブな表現を使うことから、仲間のプレーをスムーズに機能させることを基準にしていることがわかる。
それがいきなり効果を生んだ。3分に中盤で相手ミスを引っ掛けた伊藤が顔を上げると、ど真ん中を小川が裏に走り出し、その足元にていねいに、しかし鋭くスルーパスを送った。GKと1対1のビッグチャンスは、小川が左に抜けたところでGKに触られてシュートを打てなかったが、いきなり気持ちの良いコンビネーションを見せた。
2分後には自らのフィニッシュで沸かせた。左のオープンに走った近藤友喜の折り返しに合わせて左足をコンパクトに振った。シュートは右ポストを直撃した。しかし、ここでも目に見えないコンビネーションを生かした。
「小川選手が前に引っ張ってくれてできたスペースで近藤選手からの折り返しを打ったんですけど、ディフェンスラインが下がるのは分析でわかっていて、そこを狙っていました。入ればよかったですけど、勢いを持った攻撃はできました」
どちらのシーンも、小川の動きをうまく利用しながらのセカンドアクションでチャンスを生んだ。「(長谷川を含めた)この3人はお互いに見ながらやれば、誰がどこにいなければいけないという縛りや決まりごとがなくてもできますからね。お互いに自信を持ってやっています」とうなずいた。
ところで、岡山は想定していた4バックではなかった。横浜FCの攻撃をブロックしようと、3-4-3のミラーゲームを仕掛けてきた。だが、伊藤はこれを逆手に取った。
「4-4-2だと思っていたので、ちょっと想定とは違うなと。でも、3バックにしてくれたことで、フォワードの僕と小川選手と長谷川選手が守備のときに誰を抑えるべきなのかがはっきりして、低い位置で守備するより高い位置で奪えて攻撃につなげられたのでよかったですね」
結果的には前線の3人が3バックのそれぞれを抑えにいく守備が明確になって、特に前半はシュート1本に抑えることにもつながった。
この日はサウロ・ミネイロが負傷で欠場したが、伊藤、小川、長谷川のほかにも、渡邉千真や松浦拓弥らもいて、新加入のマルセロ・ライアンもこの日、初のベンチ入りと、前線は多士済々。ハイレベルの競争で高めあって、このまま首位で残り10試合を駆け抜けるつもりだ。
取材◎平澤大輔 写真◎J.LEAGUE