上写真=ゴールを決めた鈴木孝司に仲間が集まる。鈴木にとって1試合2得点は今季初だった(写真◎J.LEAGUE)
■2022年7月10日 J2リーグ第26節(みらスタ/3,684人)
山口 1-3 新潟
得点者:(山)梅木翼
(新)鈴木孝司2、伊東涼太郎
「チームとしていい崩しができてよかった」
「最近、スタメンで出た試合で結果を残せずに負けていたので、今日は自分にとってラストチャンスだという気持ちで臨みました」
アルビレックス新潟のエース、鈴木孝司は、このレノファ山口FC戦を悲壮の覚悟で戦っていた。6月26日の第23節横浜FC戦、7月6日の第25節ジェフユナイテッド千葉戦と、確かに先発したここ2試合は0-2、1-2のスコアで敗れている。
そのうっぷんは、山口の地ですっきり晴らした。2ゴール1アシストでこの日の3ゴールすべてに絡み、文句なしの一発回答である。
キックオフから押し込みながら、ようやくゴールが生まれたのが45分。ハーフウェーライン手前で星雄次が相手の縦パスをインターセプト、回収した伊藤涼太郎が再び星に預け、今度は左に開いていた高木善朗へ。するとインサイドを駆け抜けた星がニアゾーンに入り、そこへ高木がていねいで優しいスルーパスを滑り込ませた。
鈴木は中央で待ち構えつつ、星の足元にボールが入った瞬間にマイナスの位置に入るように走るコースを変えてボールを呼び込むと、センタリングに相手よりも一瞬早く足を伸ばして右足でゴール右へと送り込んだ。鈴木にとっては今季、先発した試合では6試合目での初ゴールになった。
「僕は動き出してうまいところにボールが来たので詰めるだけでした。みんなのつなぎと走力で相手に狙いどころを定めさせなかったので、最後に決められてよかったです」
仲間たちが何人も関わり合って運んでくれたボールを、大切にゴールに送り込んだ。
後半開始早々の50分には追加点だ。伊藤の左CKは一度はGK関憲太郎にパンチングで逃げられたものの、こぼれ球を高宇洋がダイレクトボレー、地面に強くバウンドして大きく跳ね上がり、舞行龍ジェームズの頭を越えると、その向こうで隠れるようにしてフリーになっていた鈴木がヘッドで確実に押し込んだ。「ダブル」も今季は初めてのこと。
これで終わりではなかった。73分のチーム3点目は、鮮やかなアシストだ。これも中盤の競り合いがスタート。星がジャンプしてこぼれたボールをまたも伊藤が回収、すかさず高木に渡して攻撃のスイッチが入った。ターンした高木の技も巧みで、右サイドに持ち運びながら体を外の方向に開き、目線も同じ方向に配って左サイドバックの橋本健人の注意をひきつけると、その逆を取って内側へとスルーパスを送り込んだ。
「ヨシが横にドリブルして相手の目線と体の向きを引き寄せてくれたので、それを見て裏を取りました」
鈴木は高木の意図を完全に理解していた。一気に右外から中に斜めに入り込むダッシュでボールに追いつくと、中央には2人。
「中には涼太郎と(松田)詠太郎がいてくれて、あとはディフェンダーとキーパーの間に質の高いボールを入れられたと思います」
ニアに松田、ファーに伊藤。鈴木が選んだのは、松田が相手を引き連れたことで完全にフリーになっていた伊藤だった。最高のセンタリングを伊藤がスライディングしながら右足でプッシュして、ダメ押しゴールが生まれた。
鈴木が何より喜んだのは「チームとしていい崩しができてよかった」ことだった。松橋力蔵監督も「いま彼は、僕が見る中では非常に良いコンディションだと思います。その中で得点を取ることができて自信になると思いますし、これをさらに続けていくことがこれからの彼のチャレンジになると思います」と、ここからのゴールラッシュに期待を寄せる。
もちろん、鈴木に一番期待しているのは、鈴木自身だ。
「試合に出るのは当たり前ではないですし、自分も結果が、ゴールがほしかったんです。チームの勝利ももちろんですけど、そういう気持ちで臨めて、ゴールを決めて、試合に勝てて本当に良かった」
ラストチャンスと決めた覚悟が大きな果実になった。そして、再び首位へ。本間至恩の移籍による戦力ダウンの可能性ばかりが取りざたされる中で、鈴木の2つのゴールと鮮やかなアシストは、そんな声を黙らせるには十分だった。