この連載では2020年のJリーグで注目すべきチームやポイント、見所を紹介していく。リーグ再開から1カ月を経過したのを機に、今回からタイトルを『Jを味わう』にリニューアル。連載第8回目はアグレッシブなプレーで勝ち点を稼ぐ栃木SCを取り上げる。一味違う戦いぶりは必見だ。

上写真=岡山戦で先制ゴールを決め、絶叫する明本考浩(写真◎J.LEAGUE)

文◎北條 聡 写真◎J.LEAGUE

際立つセカンドボールの回収力

 走る、走る。とにかく走る。連戦だろうが、真夏だろうが、関係ない。徹頭徹尾、走り勝つ。それが田坂和昭監督率いる栃木SC(J2)の信条なのだ。

 目下、4戦無敗。本拠地グリーンスタジアムにファジアーノ岡山を迎えた一戦(11節)は後半のアディショナルタイムに決勝点を奪う劇的な幕切れだった。複数得点も逆転勝ちも今季初だ。このまま上げ潮に乗っかりそうな勢いにある。

 面白いのは異端のゲームモデルだ。

 大別すれば堅守速攻だが、凡百のそれとは一味も二味も違う。11節消化時点で総失点は7。大宮アルディージャに次いで2番目に少ない数だ。ただ、自陣に深く引いて、がっちりと守りを固めているわけではない。むしろ、前へ出ることで相手を自軍のゴールから遠ざけている。

 各試合のプレーエリア(ピッチを縦に三分割したもの)を確認すれば一目瞭然。自陣よりも敵陣でプレーしている割合の方がはるかに高いのだ。直近5試合を見ても、例外はザスパクサツ群馬戦だけ。それも退場者を出したことで自陣に防壁を築くほかなかったからである。
 不思議と言えば、不思議だ。

 何しろ、1試合平均のボール保持率は40%にも満たない(10節消化時点で38.8%)。J2では最も低い数字だ。パスをつないで敵陣深く攻め込んでいるわけではない。苛烈なプレスで敵のビルドアップを破壊し、前進を阻んでいる。

 とにかく、プレスの強度が高い。その動力源が例の「走る力」だ。二度追い、三度追いは当たり前。左右に振られても高速スライドで付け入る隙を与えない。疲れ知らずのマシンのようだ。これでは攻撃側が手を焼くのも道理だろう。

 しかも、最終ラインの設定がすこぶる高い。それが可能なのも前線がサボらず圧力をかけ続け、ライン裏を突かれるリスクを最小化しているからだ。こうして縦横に圧縮された包囲網を維持しながら効率よくボールを刈り取っていく。

 ただ、J2にはこれとよく似た手法を採るチームが少なくない。栃木の一大特徴は独特の攻め方にある。ロングボールの活用だ。攻めに転じると、すかさず前線にボールを放り込み、敵のプレスを回避する。もっとも、栃木の真骨頂はそこではない。セカンドボールの回収力だ。

 最前線の矢野貴章にロングボールが放り込まれると、中盤の4人がスプリントして一気に距離を詰める。こうしてセカンドボールの争奪で優位に立つわけだ。10節でレノファ山口を破った敵地戦の決勝点はその好例だろう。始点は矢野への放り込み。敵の守備者に競り負けたものの、西谷優希がすかさずこぼれ球を拾い、明本考浩の縦パスから大島康樹が鋭くゴール前に斬り込み、クリーンショットを叩き込んでいる。

 そうなのだ。重要なのはロングボールが味方に収まるかどうかではなく、競り合った後の争いに勝てるかどうか。そこで勝ち切る力が田坂栃木の大きな強みになっている。


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