上写真=浦和戦に先発フル出場を果たした湘南の田中聡(写真◎J.LEAGUE)
ピッチ内外で感じた高揚感
浦和レッズのペア・マティアス・ヘグモ監督が「たくさん来ていただいた湘南と浦和のファン・サポーターのみなさんで、本当に素晴らしい雰囲気の中でゲームをプレーできました。湘南のクラブの方々に感謝しています」と試合後の会見終了後にわざわざ一言付け加えた。
この日のレモンガススタジアム平塚には満員で埋まったスタンドでは両チームのサポーターによる応援はもちろん、試合前にもスタジアム周りで緑と赤を纏う人たちが入場までの時間を楽しむ姿や、キックオフ前のセレモニーも趣向が凝らされ、ワクワクさせる雰囲気を醸し出していた。
31年目を迎えて改めてJリーグが地域に浸透して多くの人たちに喜びや楽しさを提供していると実感することができた。
そんな高揚感のなかで始まった試合も両チームが点を取り合うエキサイティングな展開となった。最後は4―4というスコアで幕を閉じている。ゴールの応酬を「大味だった」「ミスが多かった」と批判的に見ることも可能だが、スタンドで観戦した人たちは、応援するチームの結果に手に汗握る90分プラスアディショナルタイムを過ごせたことは間違いない。この試合にはサッカーを観戦する醍醐味があふれていた。
そんな試合の中で輝いたのが湘南のMF田中聡だった。今季開幕から湘南の代名詞だった3バックを4バックに変更していたが、この日は従来の3バックに変更(というよりは5バックと言った方がふさわしい)。中盤はスリーセンターハーフ、前線は2トップの5-3-2の布陣で、田中は中盤のセンターでプレーした。
立ち上がりこそ浦和の猛攻を受けたが、23分にノールックのスルーパスで右サイドの鈴木雄斗を走らせ同点ゴールの起点となると、32分にはペナルティーエリア前で池田昌生からのパスを受け狭いスペースで連続の引き技、いわゆる「ルーレット」でかわしてシュートを放つ。これを鈴木章斗がコースを変えて逆転に成功した。
さらに後半、開始早々に鈴木章のゴールで広げたリードを3-3に追い付かれて相手に勢いが生まれた時間帯となっていた74分には、ペナルティーエリア前のこぼれ球を左足で強烈にたたいてシュート。これがポストに当たってこぼれ、ルキアンが押し込んで再びリードを奪った。終盤に追い付かれて勝利を挙げることはできなかったが、前半と後半に浦和の勢いを消し、チームに勢いをもたらしたのは田中の活躍だった。
一昨シーズンにベルギーのコルトレイクに移籍したが、思うような結果を残せず帰国。昨季は自分らしいプレーができなかったと振り返っていたものの、今季は復活の兆しを見せている。この日のプレーはさらなる成長のきっかけとなりそうだ。中盤での強度の高い守備や確実なつなぎには定評があるが、さらに「ボランチでも得点に絡むプレーを増やしたい」と掲げていた目標をまさにこの日実現してみせた。
4月のパリ・オリンピック最終予選に向けて22日と25日に強化試合を控えたU-23日本代表にも選ばれ、試合後はすぐに代表チームへ合流するために会場をあとにしたが、この日のプレーを代表でも見せることができれば、ライバルの多いポジションではあるものの、重要な存在となり得るだろう。同じアカデミー出身で目標とする遠藤航と同様に湘南から世界へ羽ばたくことができるかーー。
取材◎国吉好弘