アルビレックス新潟のMF伊藤涼太郎が、ベルギーリーグ1部のシント=トロイデンVV(STVV)に完全移籍することが発表された。最初に加入したJクラブは浦和レッズ。2015年に行なわれた加入会見で落ち着かない様子だった高校生が、当時語っていた目標に向かって歩み始める時が来た。

上写真=2015年10月5日に行なわれた浦和レッズの加入会見。制服の襟にはプラスチックのカラーがついている(写真◎石倉利英)

「1年目からバリバリ試合に出るつもり」

 2015年の、9月末だったと記憶している。取材でお世話になっている岡山・作陽高(今年度から作陽学園高に改称)の野村雅之監督(当時)から電話があった。

「伊藤涼太郎の浦和入りが決まりました。学校で会見をやるので、ぜひ取材に来てください」

 筆者は同年6月、伊藤がサンフレッチェ広島の練習に参加したときに現地で取材している。当時の森保一監督に話を聞いたら「ボールを持っているときは面白いですよね。それ以外の局面は、これから見ていかないと」と語っていたのだが、浦和の練習に参加しているとは知らなかった。

 10月5日、校内の一室での記者会見は授業の合間に行なわれた。報道陣が待ち構えている部屋に伊藤が学生服姿で入ってくると、その場にいた学校の先生が声を掛けた。

「カラーは持っていないの?」

 作陽の男子生徒の制服は詰襟で、プラスチックのカラー(『プラスチックのカラー』が分からない世代の人は、検索してみてください)をつけるのが、いわば『正装』なのだが、伊藤はつけておらず、動揺を隠せない様子で、小声で返答した。

「持っていません…」

 結局、その先生だったかは忘れたが、誰かが急いで校内の売店まで買いに行くことに。白いカラーをつけて会見に臨んだ伊藤は「小さい頃からの夢がかなってうれしいですが、まだ一つかなっただけ。1年目からバリバリ試合に出るつもりです」と抱負を述べた。

 獲得に尽力した山田暢久スカウトから、ペトロヴィッチ監督(どちらも当時)が「早く呼べないか」と加入を熱望したというエピソードを聞いた。1年目、2016年のリーグ開幕戦で早くもベンチ入りし、飛躍を遂げるかと思われたが、その後は複数のクラブに期限付き移籍するなど、浦和では思うような活躍ができなかった。

 だが、2022年に完全移籍したアルビレックス新潟で、ついにブレイク。J1に昇格した今季にかけて、日本代表入りを期待する声が高まるほどの活躍を見せていたところで、STVVへの完全移籍が発表された。

 浦和入りが発表される前の2015年春、将来の展望を語る中で、最後に大きな目標を掲げていた。

「最終的な目標は、世界一の選手になること」

 プロ入り後はタイミングが合わず、話を聞く機会がなかった。海外に行くと、ますます機会が限られそうだが、筆者が「俺は高校時代の伊藤を取材したんだぜ」と自慢できるくらいの、素晴らしいキャリアを築いてほしいと思う。

文・写真◎石倉利英


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