上写真=上田綺世がFC東京戦で決めて、3年連続で2ケタ得点に乗せた(写真◎J.LEAGUE)
文◎国吉好弘
「バリエーションはフォワードの価値に直結する」
5月29日のJ1第16節でFC東京に1-3と敗れ、首位の座も横浜F・マリノスに譲った鹿島アントラーズにあって、唯一のゴールで反撃ののろしを上げたのは上田綺世だった。
54分、アルトゥール・カイキの左からの折り返しに和泉竜司がヒールで残したボールを、右足のインステップでゴール左に確実に送り込んだ、ていねいなゴールだった。
3点のビハインドとなった直後のこのゴールで2点差としたあと、上田が絡んで作ったチャンスなどを決めきっていれば、0-3から追い上げた前節のサガン鳥栖戦の再現もあるのではと思わせた。結局それはならなかったが、劣勢を好転させる上田の決定力は光った。
これで今季10得点目とし、3年連続で2ケタ得点に乗せ、得点ランキングのトップを走る。本人は「今日の試合、負けたのでそれがすべて。あくまで勝つために点を取りにいっているので、シーズンを通して何点とか、何年連続というのは考えていない」と記録にはそっけないが、16試合で10ゴールと最多得点を挙げているのは、Jリーグでトップクラスのストライカーであることの証しだ。
この日のゴールや鳥栖戦でのチームの2点目のように、スペースのない状況でもコンパクトな足の振りでダイレクトに決めることができ、スルーパスに走り込んでのゴールも多く、ペナルティーエリアの外から豪快に決めることもある。相手と競り合ってのヘディングも強く、ゴールのパターンは多彩だ。
身体能力が高く、縦へ出るスピードと動き出しのタイミングの良さ、高いジャンプ力も備え、ストライカーとしての資質は抜群だ。技術的にもワンタッチでのコントロールが確実で、シュートへのキックは種類も多く、正確に蹴ることができる。ここまでの10得点は得意の右足が7、左が2、ヘッドが1という内訳になる。
第11節のジュビロ磐田戦で、左足で2ゴールを決めたときに「ゴールのバリエーションはフォワードの価値に直結すると思うので、いろんなゴールが取れるようにこれからも練習していきたい」と話したように、さまざまな形から得点できることを意識しており、ストライカーとしての高い意識を感じさせる。
この後はインターナショナルマッチデーの日本代表の活動に入る。これまでエースとして君臨してきた大迫勇也がコンディション不良のために今回はメンバーから外れ、中央に構えてポストプレーもこなすタイプは上田だけになった。それだけ期待も大きいということで、前線の軸となることが求められる。
日本代表でのプレーについては「自分の特徴を体現できるように頑張りたいです」とコメント。特徴とはどんな形からでも得点できることだろう。パラグアイ、ブラジルといった南米の強豪を相手に持ち味を発揮して、何よりゴールという結果を残すことができれば、ワールドカップ本番への大きなステップアップとなる。
エースとして期待された昨夏の東京オリンピックでは、負傷の影響もあって出番が限られ、追加招集された林大地(シントトロイデン=ベルギー)にポジションを譲る格好となった。それだけにワールドカップへの思いは強いはずで、6月シリーズはその試金石となる。ワールドカップを見据え、日本代表でも「チームを勝たせるためのゴール」に期待したい。