上写真=先制ゴールを挙げた宇賀神友弥は手を耳に当てて拍手を要求。雰囲気を盛り上げた(写真◎Getty Images)
決勝で勝たなければ何も残らない
3年ぶりの決勝進出を目指したC大阪との準決勝で、宇賀神は浦和の先制ゴールを叩き出した。右サイドの関根貴大から流れてきたボールを、明本考浩が収め、そして後方から攻め上がっていた宇賀神が受け取った。力むことなく右足を振り抜くと、シュートはゴール右隅を射抜いた。前半28分。ピッチにもスタンドにも歓喜が広がった。
「自分の所にボールが来る前に、反対側でオフサイドっぽいシーンがありました。ディレイでオフサイドが取られるかなという気持ちがあって。(パスをくれた)明本選手が空振りしたことで、たぶん僕に(ゴールを)取らせるためにわざと空振りしてくれたと思うんですけど、あそこで時間ができたのが大きかった。ゴールシーンは打った瞬間に、シュートの軌道が見えていました」
ゴールが決まった瞬間、仲間が一斉に駆け寄ってきた。酒井宏樹には「雰囲気を作ってください。会場を煽ってください」と言われたという。宇賀神はスタンドにアピールすると、拍手がひと際大きくなった。
今季をもって契約満了の宇賀神は天皇杯を最後に退団することが決まっている。名古屋戦ではファン・サポーターへの挨拶も済ませた。「正直なところ、名古屋戦で自分のピッチの上での役割は終わったんじゃないかなという気持ちがありました」と本人も言う。さらにチームを去る人間として「来季を見据えていく上で、このトーナメント勝ち抜くというのは、残る選手にとって非常に貴重な経験だと思います。ここをしっかりとつかみ取ることによって選手として、計り知れないほど成長できる場だと僕は思う。だから(先発は)僕じゃないんじゃないですか? と(監督に)話をしようと悩んだ日もありました」。それはクラブを愛するがゆえの気持ちだった。
しかし、その一方で浦和レッズを背負ってきた選手としての自負もあったと明かした。「浦和レッズの人間として、支えてくれるサポーターに自分を見てもらう、自分を覚えていてもらうチャンスがあるのであれば、気持ちを奮い立たせて埼スタのピッチに立つことがプロサッカー選手として、浦和レッズの人間としてやれる、最大のパフォーマンスなんじゃないかと」。
浦和で過ごした12年は、宇賀神にとって誇りだ。「言い方が悪くなってしまうんですけど、自分に対して契約満了という決断をした人たちを、このピッチで見返してやるんだぞと、あなたたちは間違っていたんだぞということを証明してやるという強い気持ちを持ってピッチに立ちました。なんでそういうこと言うだと言う人もいるかもしれないですけど、僕という人間はそういう人間なので、そういう気持ちが今日のゴールに乗り移ったんじゃないかなと思います」。まさに誇りと意地のゴールだった。
長く宇賀神ととともに戦ってきたGK西川周作は、「素晴らしいゴールで、本当に泣きそうになるぐらいうれしかった。彼のゴールっていうのはみんなに勇気を与えてくれたと思います。宇賀神選手、持ってるなと。『天皇杯男』だなというふうに思っていました。彼が浦和を去るというのは僕自身、非常にさびしいですけど、彼がこうやって埼玉スタジアムのピッチで最後、点を決めたっていうのは本当に持っていると思う」と盟友についてコメント。宇賀神は仲間の気持ちも高めるプレーぶりだった。
2018年に浦和が天皇杯を制したとき、決勝の仙台戦で唯一のゴールを挙げたのが宇賀神だった。チームは天皇杯男の活躍により、3年ぶりの優勝に挑む。
「もう勝つしかないと思いますし、今日ホームで最高の雰囲気で勝つことできましたけど、決勝で勝たなければ何も残らない。何も意味がないので、必ず決勝で勝利をつかみ取って、また来年、ファン・サポーター、そして選手が、アジアで暴れてもらうためにも必ず優勝をつかみ取りたいと思います」
浦和の歴史を創ってきた男は、最高の置き土産を約束した。