2021年10月10日、JリーグYBCルヴァンカップ準決勝第2戦が開催された。味の素スタジアムではFC東京対名古屋グランパスが行なわれ、第1戦は3-1で勝利を収めていたが名古屋が、1-2で試合に敗れるも合計スコア4-3として、初の決勝進出を決めた。

上写真=決勝進出を決める1点をもぎ取った稲垣祥(写真◎J.LEAGUE)

■2021年10月10日 JリーグYBCルヴァンカップ準決勝第2戦(@味の素ス/観衆9,910人)
FC東京 2-1 名古屋
得点:(F)アダイウトン、高萩洋次郎
   (名)稲垣祥

・FC東京メンバー:GK波多野豪、DF中村拓海、森重真人、渡辺剛(75分:ブルーノ・ウヴィニ)、渡邊凌磨、MF青木拓矢(83分:紺野和也)、安部柊斗、ディエゴ・オリヴェイラ、高萩洋次郎(83分:三田啓貴)、アダイウトン(66分:東慶悟)、FW永井謙佑

・名古屋メンバー:GKランゲラック、DF森下龍矢、中谷進之介、キム ミンテ、吉田豊、MF稲垣祥、木本恭生、長澤和輝、FWマテウス(69分:ガブリエル・シャビエル)、柿谷曜一朗(89分:相馬勇紀)、前田直輝(51分:シュヴィルウォク)

喜怒哀楽が詰まった96分

 最後に笑ったのは名古屋だった。一時は0-2とされ、第1戦のリードは無くなった。だが土俵際まで追い込まれながらも、最後に見事にうっちゃった。名古屋の指揮官、フィッカデンティ監督の言葉を借りれば「喜怒哀楽の詰まったゲーム」だった。

 序盤、第1戦を1-3で落とし、2-0の勝利を目指すFC東京は当然ながらアグレッシブな姿勢を打ち出していった。ケガと代表招集の影響で人材難の左サイドバックには渡邊凌磨を起用。まさにスクランブル状態で試合に臨むことになったが、J1第32節で対戦したときと同じように前半は名古屋を押し込んだ。

 鋭い出足でボールホルダーに食いつき、マイボールにするやファストブレイクを仕掛けていく。急先鋒となったのはD・オリヴェイラ、永井、そしてアダイウトンだ。3人が果敢にボールを運び、名古屋守備陣を後手に回らせた。ゴールに向かう姿勢が実ったのは、15分。右CKを得ると、渡邉がショートコーナーを選択する。受けた高萩がダイレクトでボックス内へクロスを供給し、名古屋守備陣よりも早くジャンプしたアダイウトンがヘッドで名手ランゲラックを破った。

 1点を先行したことで、FC東京はもう1点取れば勝ち抜けられる状況を整える。第1戦を終えて大きなリードを得たはずの名古屋は一転、苦しい状況に追い込まれた。好機を創出できない名古屋は、アンカーの木本を最終ラインに下げ、中谷、木本、キム・ミンテで3バックを形成。守備の安定を図った。

 それでもFC東京の勢いは止まらない。とくに目立ったのが高萩の働きだ。攻撃から守備へ、守備から攻撃へ、ボールが行き交う中盤で躍動。攻守両面で存在感を示し、チームの勢いを生み出した。D・オリヴェイラの振り向きざまのシュートはランゲラックに弾き出され、ボックス右に進入して放ったシュートはわずかに枠を逸れたが、前半はFC東京ペースのまま終了する。

 迎えた後半も開始からしばらくの間、FC東京の勢いが続いた。素早い切り替えで敵陣に殺到。そして55分、前向きなFC東京の姿勢が次の1点を生み出した。自陣右サイドの深い位置で安易に蹴り出さず、サイドバックの中村拓からパスをつなぐ。名古屋のプレスを掻いくぐり、D・オリヴェイラが力強いドリブルでボックス内まで持ち上がった。中央へ折り返したところを永井がシュート。一度は相手DFにブロックされるが、後方から走り込んでいた高萩が跳ね返りを冷静に蹴り込み、FC東京が2-0とした。

 この時点でトータルスコア3-3。アウェーゴールの差でFC東京の勝ち抜け条件が整った。歓喜に沸くFC東京ベンチ。ただ、名古屋も1点を返せばたちまち、立場は逆転する。試合はここから、さらにヒートアップしていった。

 FC東京に暗雲が立ち込めたのは71分過ぎのことだった。敵陣でボールにアタックして相手に入れ替わられ、慌てて追走した渡辺剛がふくらはぎを負傷。交代を余儀なくされたのだ。代わって入ったのはB・ウヴィニ。それまで良いリズムで守っていただけに、FC東京にとっても名古屋にとってもポイントとなる交代になった。

 残り15分となり、名古屋がボールを保持し始めると、80分、ついにゴールをこじ開けてみせた。左サイドから吉田が入れたボールは合わなかったものの、森下が折り返し、シュヴィルツォクがシュートを放つ。ブロックされてこぼれたところに稲垣がいち早く反応。混戦の中、頭でボールを押し込み、形勢逆転のゴールを決めた。「こぼれてくると思っていました」と試合後に稲垣は話したが、まさに気持ちで決めたゴールだった。

 残り時間が少なくなる中で、両チームとも次々に選手を投入。決勝進出の切符をつかみにいったが、6分のアディショナルタイムを経てもスコアは動かず。この試合は2-1でFC東京が制したが、、2戦合計4-3とした名古屋が決勝進出を決めた。

「(2失点したあと)絶対に決勝に行くんだ、グランパスの歴史を創るんだという気持ちがどんどんプレーにこもっていった。それがゴールという形になりました。とにかくすごいことをやり遂げたと選手たちに伝えたい」

 フィッカデンティ監督は、2点のビハインドを背負ったあと、諦めずプレーした選手たちを称賛した。シュヴィルウォク投入で前線に起点をつくろうと試みたが、相手は中央を締めていた。そこでG・シャビエルの投入して陣形を広げ、攻め筋をつくった。やがて相手の最終ラインの構成が変わったことも手伝ってボールが回り始め、決勝につがる1点をつかみ取った。刻一刻と状況が変わるスリリングなゲームを共に演出したFC東京を「素晴らしいチーム」と称えた上で、指揮官はクラブ初の決勝進出を喜んだ。

 10月30日に行なわれる決勝の相手は準決勝で浦和を下したセレッソ大阪に決まった。一つ一つ着実に階段を登ってきた名古屋は、あと1勝で新たな歴史を刻む。

取材◎佐藤 景


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