川崎フロンターレはいま、主力の移籍、負傷者続出、過密日程で苦しいときを過ごしている。そんなチームを救うのが、熟練のストライカー、小林悠である。2試合続けてゴールに直結する決定的な仕事をやってのけた職人技を、自らが解説する。

上写真=札幌戦で先制点を決めて雄叫び。小林悠が川崎フロンターレを救う(写真◎J.LEAGUE)

「体を預けることでスペースを作って、シュートの軸足にもなる」

 やはりこの人は、仕事をする。川崎フロンターレの前線で、ゴールに直結するプレーを必ず見せるのは、小林悠。

 例えば、8月28日のJ1第27節北海道コンサドーレ札幌戦だ。その前の第26節アビスパ福岡戦で今季公式戦初黒星を喫していて、連敗は許されない大事なゲーム。福岡から札幌へ直接入って中2日で、しかもナイトゲームの次がデーゲームという日程で戦った難しい状況で、試合内容も我慢が続いた。

 そんな停滞ムードを振り払ったのが、小林の素晴らしい技巧だった。左サイドから宮城天がゴールに向かってドリブルすると、ペナルティーエリアの中でパスを引き出した。反転してから、ゴール右にパスを届けるようにていねいにやさしく確実に流し込んだ、34分の先制ゴール。

 このターンとシュートに、小林ならではのテクニックが散りばめられた。一連の流れの中で、相手に体を預けるようにして反時計回りに回ってフィニッシュ。

「相手を背負って体を預けることでスペースを作って、シュートの軸足にもなるので、とっさに出た判断というか、奪われないように打つにはああしなければいけなかったと思います。相手に預けた体が軸になってコースに打てましたけれど、考えてやったというよりは自然と体がそうなった感じです」

 ペナルティーエリアの密集した場所で、一瞬の間で、思考を省いて自然に体が動いたということは、どれだけの練習を積み重ねたのかが想像できるというものだ。

 続く9月1日のルヴァンカップ準々決勝第1戦で見せたのは、貴重なアウェーゴールを導くアクロバティックなプレーだ。

 68分に左サイドでボールを持った小塚和季が顔を上げたときに、右から中央へ斜めに、相手の守備ラインを破るように走り抜けた。「右のワイドをやるときにはいつも狙っています」というすり抜けのラン。そこへ小塚から優しい浮き球のパスが送られてくる。背中側に脇坂泰斗が連動して入ってくるのが見えていて、ジャンプしながらヒールで送るという高度なテクニックで落とした。受けた脇坂がそこで倒されて、VARチェックを経て主審がPKの判定を下した。72分、家長昭博が決めて同点に追いついた。

 どちらもまさにゴール職人らしい、クラフトマンシップの粋のような技。実はこの浦和戦では相手のFWキャスパー・ユンカーや興梠慎三が欠場したことを残念がっていて、それは彼らのプレーを目の前で見て参考にしたかったからだという。「フォワードはみんな、ライバルではなく仲間」という純粋な意識が積み重なって、自らの職人技に集約されていくのだろう。

「もっともっと試合に出たい」が本音。主力の移籍、負傷者続出、過密日程でチームは本当に苦しいが、そんなときに9月23日に34歳になる熟練のストライカーが堂々とチームを救うとは、本当にかっこいい。


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