上写真=相馬勇紀はいま、サッカーが楽しいという最高のサイクルに入っている(写真◎Getty Images)
「過信にせずに自信に変えていきたい」
「いま、本当にサッカーを楽しくやれています」
相馬勇紀が伸びやかにプレーしている。一時は窮屈そうにプレーしていたが、いま、自他ともに認める「急成長期」に入ったようだ。
「自分で言うのもなんですけど、成長できているなと思う部分があるんです。それを過信にせずに自信に変えていきたいと思っています」
自分で自分の成長を実感しながらプレーする。楽しいはずだ。
直近の試合となったJ1第24節のベガルタ仙台戦。10月14日に肋骨を骨折して全治3週間とされながらわずか10日ほどで復帰したことが話題になったが、64分にピッチに登場した直後の65分に象徴的なアクションを見せたこともまた、驚きだった。
左サイドでボールを受けたときに、中にゆっくりと持ち出しながら周囲の状況を確認した。中央に目を配りつつも左外を回ったオ・ジェソクに縦パス、クロスが跳ね返ったところを稲垣祥が拾って左に切り返して左足でシュート、これがDFに当たって浮き上がり、ゴールに吸い込まれた。相馬は決勝点の起点になった。
「サイドの選手が2枚(マークに)来て、ボディーフェイントを使いながら抜きにいく仕草を見せたから後ろの選手がカバーに入ろうとしたところで、ジェソクがあきました」
この言葉が意味するのは「見る」ことの重要性だ。相馬自身は「味方を使うのも、自分でいくところも止めるところも判断するのは、情報を見てどこを使うかということで、判断は大切です。見る質と量が増えているのが変わってきたところだと思います。そこは意識してトレーニングしているので、サッカーを楽しくやれていると思います」と大きな手応えを感じている。
「中を見るだけで相手は迷うだろうし、スピードの緩急と重心を意識していたところに、相手を見ることでもっと迷うと思います。そうすれば、スムーズに抜けるし、抜いたあとのプレーもスムーズになるんです」
「見る」ことをトレーニングで意識しているというが、興味深いのはそれがどんな内容なのかだ。
その答えは笑いながら「あんまり言いたくないんですけど…」だった。ただ、「一つ例を出して言うなら」と続けて、その虎の巻を少しだけ教えてくれるのだった。
「見る量というところでは、ボールを受ける前にドリブルしている人を見るのではなくて、相手のカバーと、こちらのフォワードとトップ下はどこにいるのか、相手がどれぐらい揃っているのかを見るんです。こっちのフォワードと相手のセンターバックが1対1で中にいるなら、(ボールを受けてから)ドリブルを仕掛ける前にワントラップ目で止めてクロスを上げた方が、点が入る確率は高くなるだろうし、そこが頭に入ってこない限りは次のプレーはできないと思います。あんまり言いたくないので、まあこんな感じです」
目でサッカーをプレーする。端的に言えばそういうことになるだろうか。ゴールから逆算してより可能性の高いプレーを選択できるから成功の確率が上がり、サッカーが楽しくなる、という最高のサイクルだ。
次節の相手は、昨季所属していた鹿島アントラーズだ。「僕が所属していたときの鹿島らしさがさらに強くなってきた」と警戒を強める。「勝負強さであったり、体をぶつけて奪うところもそうですし、ショートカウンターでの得点が増えている印象があります。つなぎながらも背後へのロングパスを多用することが増えてきているので、対応していければと思います」
マッシモ・フィッカデンティ監督が再設定した「2位」の絶対目標に向けて、勝ち点で並んでいる鹿島に負けるわけにはいかない。しかも、前回対戦はホームで負けているのだ。
ただ、昨季のイメージが強く残っている相馬にとっては、カシマスタジアムもいわばホームのようなもの。「もう一つのホーム」で伸び伸び駆け回って、「目」で相手を困惑させるに違いない。