上写真=横浜FC戦で45分間プレー。完全復帰に期待がかかる(写真◎Getty Images)
すり合わせの時間が返ってきた
中村憲剛が昨年11月に左膝前十字靭帯損傷、左膝外側半月板損傷の重傷を負ったあと、川崎フロンターレは新しいチームになった。鬼木達監督の下で進化し、4-3-3のフォーメーションをベースにしてより攻撃的でより相手を圧倒するスタイルを磨いていった。
その結実は、ご覧のとおりだ。19試合を終えて16勝2分け1敗、58得点18失点、勝ち点を50にまで積み上げて首位独走中、である。
この間、リハビリに向かい合ってきた中村は、8月29日の第13節清水エスパルスで復帰、いきなり彼らしい色気のあるループシュートで得点まで決めてしまう役者っぷりで自らお祝いすると、9月23日の第18節横浜FC戦ではついに先発復帰を果たした。
すべてが新鮮に感じたというその先発復帰ゲームでは、ピッチの上でなければ分からないことに囲まれて、幸せだった。与えられたポジションは、左のインサイドハーフ。
「いままでの4-2-3-1のトップ下と比べて、攻撃と守備の役割は大差はないんだけど、周りの連動の仕方が違いますね。(センターフォワードのレアンドロ・)ダミアンとオレのところでまず守備をスタートするというところでは変わらないんだけど、周りのウイングの立ち位置は違ったなと」
「攻撃のところでどこに立つか、インサイドハーフに求められているものは何か、というのは、上から見ていて理解はできていたけど、実際に中に入ると周りとの兼ね合いのことや、もちろん相手の守備の形のこともある。だから、味方と相手の見え方は試合に入らないと分からないな、って。ああ、こういう感じだったのか、と直さなきゃいけないなと思うところもありました。でもね、そういうことすら楽しいんですよ。だって、これまで10カ月半も試合に関与できなかったんだから」
苦労のすべてがいいことだとは限らないが、少なくとも中村にとっては、負傷離脱とは喜びを何重にもふくらませる装置になったようだ。
「細かいところだと、ボールを回しているときの立ち位置とかですね。インサイドなのでハーフスペースを使うことが多いんだけど、いつパス回しのヘルプに入るのかとか、逆にいつまで我慢しておくかとか、オニさん(鬼木監督)にも試合中にずっと言われてました。相手の守備組織にもよると思うんですけど、この前(横浜FC戦)は真ん中を締めてきたので、逆のインサイドハーフが入っていく意識をつけないといけなかったし、ニアゾーンへのランニングもそうだし、もともとやってたことだけどよりチームとしてはっきりした役割があるなと感じました」
「上から見ていて、ああ、そこで走ればいいのに、って思うのと、ピッチに入って、あ、ここがそうだったか、とすり合わせることができたのが大きいですね。(旗手)怜央や(山根)視来とやるのはほぼ初めてだから、彼らに自分がどういう選手なのかを知ってほしいのもありました。ここで出してくれればいいのにな、と思うところで、こっちの状況を見て出さないでいてくれたんだろうけど、こっちはくれればいいから、というときもあって、そういうところは実際にやらないと分からないですからね。関係構築って練習だけだと難しいんです」
「インサイドハーフとしてもそうだし、一人の選手としてどうやってこの中に入って生かしていくのか。自分のプレーを見直しましたけど、そういうすり合わせの時間が返ってきたのがうれしいんです。自分で自分を分析していくのはこの17年間ずっとやってきたことで、それが戻ってきたのがうれしくて。次に出番が来たときに、そういうことがまた増やせればいいですよね」
横浜FC戦では前半の45分でプレーを終えた。「新フロンターレ」の中に入って改めて驚いたのが、若手のパワーだ。
「自分がゴールを取っても周りに取らせてもいいんだけど、若者たちが強烈にぐんぐん行くのですごいな、って。感化されるところはありますよね。やらなきゃなと思いましたよ。もちろん個性も違うので、やれる中でやれることがあれば、ですけどね」
パワーとスピードで相手を凌駕していく若手を、中村がセンス満載のパスで操っていく。そんな魅力を携えた「新・新フロンターレ」の姿が見える。
「もともとそういう役割だし、怜央も(三笘)薫も(田中)碧も前に出ていく推進力を持っているので、彼らをうまく生かしつつ、自分も生きる、というね。これまでやってきたことをやれれば、相乗効果が生まれるんじゃないかな、という思いが、彼らとやって芽生えました。オレが感心しているだけではダメで、エネルギーを持って彼らがぐっと行けばオレも行けますし、逆もしかり。フロンターレの攻撃的な守備のプレスのところとも合致していて、一緒にいい形でやっていければと思っています」
ただでさえ強い川崎Fが再び「憲剛の頭脳」を手に入れて、また一つ、スケールアップするかもしれない。