上写真=同点ゴールを挙げて絶叫する阿部(写真◎J.LEAGUE)
文◎北條 聡
一流のプロフェッショナル
扉を開けば、あら不思議。その先にはゴールという目的地が――。今季から名古屋グランパスに加わった阿部浩之は、まるでドラえもんの「どこでもドア」みたいな選手だ。
この人がアタッキングゾーンに出没すると、決まってゴールへの道が開ける。これまで在籍したガンバ大阪でも川崎フロンターレでも、そうだった。いや、ゴールだけではない。勝ち星はもとより、タイトル争いの頂点まで連れていってくれる。
人呼んで優勝請負人。たいていは優秀な指揮官の決まり文句だから、選手に使われるのはめずらしい。G大阪で三冠、川崎FでJ1連覇を経験。確かに阿部の行く先々に栄冠がついて回る。これはいったい、偶然か必然か。
ベガルタ仙台とのJ1開幕戦は1-1のドローに終わった。貴重な同点ゴールはいかにも阿部らしい職人芸によるもの。右サイドを鋭くこじ開けた前田直輝のプルバック(マイナスの折り返し)をゴール左へていねいに流し込んだ。
利き足は右だが、合わせたのは左足。どちらでもゴールの四隅に蹴り分けるシュートの達人として知られてきた。それもワンタッチで仕留めるのだから、相手のGKはお手上げである。反応してからでは遅いからだ。
しかも、両足をゴルフのパターみたいに操ってボールを転がす。これがGKにとって最も取りにくい――とわかっているからだろう。何しろ体を倒さなければ手が出ない。ボールをかき出すにはひと手間かかる。つまり、ワンタッチとグラウンダーの合わせ技でセービングの時間を削り取っているわけだ。それを楽々と演じて見せる。
難しいことを簡単に見せてしまうのが超一流のプロ。その見本のような一撃と言ってもいい。あれには本職の点取り屋も真っ青だろう。ボックス近辺でもスゴ腕の仕事人だが、ポジションを問わない汎用性の高さも「どこでもドア」的だ。