2024年のパリ五輪出場を目指すチームが、大岩剛監督就任後、初めての国際大会に参加した。10カ国が参加した『ドバイカップU-23』だ。同大会で日本は3連勝を飾り、優勝。現地で取材した筆者が今回のチームが得たものと可能性について綴る。

上写真=3連勝でドバイカップU-23に優勝したU-21日本代表の選手たち(写真◎川端暁彦)

文・写真◎川端暁彦

可能性しか感じなかった(大岩監督)

 春とは思えぬ肌寒いくらいの気候だった日本から一転、別の意味で春とは思えぬ灼熱の太陽が照り付ける砂漠の国へ。西アジアの中核都市ドバイの地に降り立ったのは、2年後のパリ五輪を目指して本格的な活動を開始したU-21日本代表である。

 FW荒木遼太郎、鈴木唯人、DF西尾隆矢とA代表候補経験者3名を擁し、多くの選手が所属のJクラブでレギュラーポジションをつかんでいるメンバーがズラリとそろう。「素晴らしい選手がそろった」と就任したばかりの大岩剛監督が明言したとおり、負傷者やすでにA代表常連のMF久保建英といった例外要素を除けば、ほぼベストと言えるオーダーでの遠征となった。

 2年後のパリ五輪に向けて言えば、五輪本大会そのものを含めても、これだけの選手がそろう機会はそうないだろう。ここから欧州へと旅立つ選手が増えていくことを想定すれば、パリ五輪アジア最終予選も恐らくベストから程遠い布陣となる。その意味からすると、単純な『チーム作り』の第一歩として位置付けることができない難しさが、現代の日本サッカーにおける五輪代表にはつきまとう。今回のメンバーが次も呼べるかと言えば、おそらく呼べないし、今後もそろわない可能性が高いからだ。

 では、何のための遠征か。

 大岩監督はここに明確な目的意識を与えている。「ここから一人でも多くの選手がA代表に入っていくこと」をチームの大目標として掲げ、重ねて選手たちにそのための意識づけを行なってきた。かつて2004年のアテネ五輪代表を率いた山本昌邦監督(当時)は「アテネ(五輪)経由ドイツ(W杯)行き」を掲げていたが、大岩監督は「A代表経由パリ行き」というテーマを強調する。A代表で戦うためのイロハをこの五輪代表の活動を通じて培い、それぞれに飛躍してもらいつつ、最後の五輪本大会だけは選手を集結させてメダルを狙いたい。そういったイメージだ。

 そのためのステップとして、この年代としては2年ぶりの海外遠征となった今回のドバイカップは格好の舞台だった。21日朝に到着し、夕方に軽く体をほぐし、翌22日に1度だけ短時間のトレーニングを行なって、23日にクロアチアとの初戦を迎える。気候も違えば、時差ボケも残り、中には「初めまして」の選手もいる中で、いきなり未知の相手との国際試合である。おまけにこのスケジュールをこなせた選手ばかりではなく、前日練習から合流という選手が多数いる状態だった。

「最初の試合はみんな動けていなかったし、自分も全然動けなかった」

 鈴木唯人がそう振り返ったのも無理はない。だが、「これも代表チームには起こり得ること」と指揮官は強調する。A代表のW杯最終予選でも似たような流れで迎える試合はあった。その中で結果を出すことが求められるのが代表チームであり、代表選手なのだ。鈴木はこうも言う。

「こういう状況でも、これがA代表の大事な試合だっとしたら、そういうところでパフォーマンスを出せないと結局は評価されない」

 このあとも中2日の連戦で、強度の高いトレーニングはそうできない。しかも第2戦を終えて帰る予定の選手もいれば、現地でコンディションを崩す選手、負傷してしまう選手も出て来たので、指揮官が事前にイメージしていたであろう形では先発オーダーも組めなかった。ただ、「これもまた代表チームでは起こり得る」と指揮官は達観した様子で、むしろ難しい状況で本職でないポジションに入る選手が出る、いる選手に合わせてシステムを変えるといった点に選手たちがどう対応するか、うまくいかないならいかないなりのプレーをできるかを見守りつつ、また求めてもいた。

 なぜかと言えば、「A代表に入っていくこと」を求めるならば、それこそが必要な資質だからだ。

 それはもちろん試合でも同じ。選手から「国際試合はやっぱりJリーグとは違う」という声が多々聞かれたように、感覚の違いやギャップを埋める能力も重要だ。リーチが違う、身体的な特長が違う、プレー選択の傾向が違うといった面もそうだし、ボールも違うし、審判のジャッジも違ってくる。そこにアジャストするためのノウハウも、やはり国際試合をこなすことでしか得られない。それはもちろん、A代表で活躍するための不可欠な資質だ。

 短時間の練習と限られた合宿生活でコミュニケーションを取りつつ、連係を培い、一体感を養っていく。そんな経験もこうした代表の遠征で得られる財産の一つであり、A代表で戦うための前準備である。また最年少メンバーのDFチェイス・アンリが先輩DFたちにプレーの極意を聞きに行きまくっていたように、個人の成長のための相互刺激も大きい場でもあった。

 大会としては3連勝で優勝。年長のチームを相手に堂々たる戦績であり、チームのポテンシャルを示したと言える結果だろう。異国の地で「日本代表チームとしてのアイデンティティを持って勝ちに行く」(大岩監督)というシチュエーションを体感し、そして勝利経験を蓄積したこと自体が財産になるのは間違いない。

 ただ、選手たちから「試合内容はまだまだ課題も多い」(藤田譲瑠チマ)といった言葉が漏れてきたように、今後がこれで安泰という話でもあるまい。「A代表入り」という物差しを当てはめるなら、個々のプレーで合格点を与えられる選手はいないとさえ言えるだろう。

 そしてそれこそ、大岩監督がこの代表で求めるものでもある。次は6月のU-23アジアカップで、今度は公式戦の国際大会を戦う難しさと面白さを体感しつつ、もう一皮むける選手がどれだけ出てくるか。

 パリの灯を目指すフライトは始まったばかり。「この年代の選手たちには可能性しか感じなかった」と言った大岩監督の指揮下、A代表トランジットでのパリ行きを狙う旅となる。

▼ドバイカップU-23結果
■2022年3月23日
・U-21日本 1-0 U-23クロアチア
得点:(日)小田裕太郎

■2022年3月26日
・U-23カタール 0-2 U-21日本
得点:(日)斉藤光毅、山本理仁

■2022年3月29日・決勝
・U-21日本 1-0 U-23サウジアラビア
得点:(日)細谷真大


This article is a sponsored article by
''.