上写真=不利な状況にも気落ちすることなく、大逆転を成し遂げた湘南の選手たち
■2019年5月17日 J1リーグ第12節
浦和 2-3 湘南
得点:(浦)長澤和輝、ナバウト(湘)菊地俊介2、山根視来
奇跡のロッカーアウト! 「負けて言っても仕方ない」
これぞ、湘南スタイル。2点のビハインドを背負っても、不可解な判定で怒りを募らせても、最後まで勝負をあきらめなかった。後半だけで3点を集めて、逆転勝利。興奮冷めやらぬ状態で記者会見上に姿を見せた曺貴裁監督は、奇跡の白星をかみ締めていた。
「きょうのような試合展開は、人生で一度あるかないかだと思います。選手たちは反発心を出して、正々堂々と戦って勝ち点3を取ってくれた。こういう場に立ち会えて、私は幸せです」
0-2の31分に明らかなゴールを見逃されるという大誤審があっても、湘南は勝負を捨てることはなかった。指揮官はハーフタイムのロッカールームで選手たちに問いかけた。
「やるか、やめるか」
チームをけん引するベテランのGK秋元陽太、梅崎司らの腹は決まっていた。ベンチでは2人を中心に大きな声が上がる。
「負けてから言っても仕方ない。絶対に逆転するぞ。逆転してからジャッジについては抗議しよう!」
ピッチで戦う誰もが、この意見に異論をはさまなかった。チーム一丸となり、2点差をひっくり返すことだけに集中。行き場のない怒りもすべてパワーに変えた。
眞壁潔会長はハーフタイムにロッカーへ足を運び、後半の開始時間にピッチに出て行かないように伝えようとしたが、選手たちの燃えたぎる思いを感じ取り、矛を収めたという。秋元の「(開始の8時)36分に出ます」という力強い言葉を聞き、会長も心を震わせていた。
「一クラブの代表として、選手たちからいろいろなことを教わりました。涙が出そうになりました。こういうことを含めての湘南スタイルなんだなと」
迎えた後半、選手たちは鬼気迫る勢いでプレスをかけ、奪った球をすぐさまゴール前に運んだ。魂がボールに乗り移ったとはこのことか。後半から途中出場した菊地があっという2ゴールを奪って同点に追いつくと、最後は機知に富んだDFの山根が決勝点をマーク。
「ゴールの瞬間は、何も覚えていません。絶対に逆転するという強い覚悟が得点につながった。頑張った結果だと思う」(山根)
メンタルを乱されてもおかしくない誤審があっても、集中力を切らすことはなかった。
「ときにコントロールできないことも起こるのがサッカーです。誰かのせいにしても何にもならない。何があっても、下を向いたら何も残らないので」
湘南が戦ったのは、目の前の敵だけではない。自分たちの力の及ばない困難にも打ち勝ち、奇跡を呼び起こした。
取材◎杉園昌之 写真◎J.LEAGUE