上写真=2015年、瀬戸内高2年時の安部。地元でのインターハイで活躍し、鹿島からのオファーを受けた
写真◎石倉利英

 2018シーズンのJリーグで最も活躍した若手選手に贈られる「ベストヤングプレーヤー賞」を受賞した鹿島FW安部裕葵(ひろき)。クラブ・ワールドカップに参加中のため、18日のJリーグアウォーズは欠席したが、「この賞は自分ひとりの力ではなく、チーム、先輩方、そして関係者の皆さまが僕をサポートしてくれたので受賞できたと思っています。そして僕をずっと支えてくれた家族にも、とても感謝しています」と喜びのコメントを寄せた。

 広島・瀬戸内高時代は全国的に知名度の高い選手ではなかったが、加入1年目の昨季から出場機会をつかむと、今季はU-19日本代表でも持ち味を発揮するなど急成長を遂げている。日本時間19日(水)深夜に行なわれるクラブ・ワールドカップ準決勝、レアル・マドリード戦での活躍も期待される鹿島の新星は、どんな高校時代を過ごしてきたのか。

3年時にインターハイ8強に貢献

 東京のS.T.FCから、2014年に瀬戸内高の門を叩いた安部。入学当初からドリブルの切れ味は光っていた一方で、判断の悪さが課題だった。元フットサル日本代表でもある瀬戸内高の安藤正晴監督は、当時をこう振り返る。

「2年生の初めごろまでは、相手の人数がそろっているのにドリブルで突っ込んでいったり、相手を背負った状態から無理に仕掛けて、ボールを奪われたりしていた。強引なプレーが失点につながることもあったので、厳しく言ったり、試合に使わなかったりしました」

 ただ、エゴイスティックなプレーの反面、アドバイスを受け入れる素養も持っていた。「周囲の声を聞く耳も持っていました。ドリブルが好きで、ボールを離さない選手でしたが、2年生になって相手にマークされ始めた頃から、強引にいくところと、簡単にパスをするところの判断ができるようになった」(安藤監督)。状況に応じたプレー選択ができるようになったことで、武器のドリブル突破も、より効果を発揮するようになった。

 そんな安部が大きな注目を集めたのが、3年時の2016年に地元・広島で開催されたインターハイだった。県予選2位で出場権を得た瀬戸内は、1回戦で市立長野(長野)、2回戦で近大和歌山(和歌山)、3回戦で滝川二(兵庫)を下してベスト8に進出。準々決勝で杉岡大暉(現湘南)らを擁し、この大会で優勝する市立船橋(千葉)に1-2で競り負けたものの、この試合でも1得点を挙げた安部は、通算3得点で優秀選手にも選出された。

 このときの活躍が鹿島の椎本邦一スカウト担当部長の目に留まり、オファーを受けて鹿島入りが実現する。同年9月に行なわれた加入内定記者会見に、制服姿で出席した安部は「小さい頃からサッカー選手になりたいと思っていて、夢が実現して安心しています」と笑顔を浮かべた。さらに「でも、加入してからが本当の勝負。両親、兄、サッカー関係者の皆様、学校関係者の皆様に恩返しができるよう、アントラーズで一所懸命頑張りたい」と語り、「得点に絡むことができるのが自分の持ち味。結果にこだわっていきたい」と言葉に力を込めた。

画像: 2016年9月、鹿島加入会見に臨む安部。右は瀬戸内高の安藤監督

2016年9月、鹿島加入会見に臨む安部。右は瀬戸内高の安藤監督

 2017年に鹿島に加入すると、4月にJリーグデビュー、7月にJリーグ初得点を挙げ、最終的にリーグ戦13試合出場・1得点。2年目の今季は開幕戦に先発出場すると、22試合出場・2得点と数字を伸ばす。U-19日本代表にも選出され、10月のAFC・U-19選手権では背番号10を背負い、来年のU-20W杯出場権獲得に貢献した。

 さらに、U-19日本代表を早めに離脱して鹿島に戻ると、AFCチャンピオンズリーグ決勝は第1戦、第2戦とも先発出場して初制覇に貢献。クラブW杯の初戦、グアダラハラ(メキシコ)戦では0-1で迎えた後半開始から交代出場し、得意のドリブル突破などでチームを勢いづけると、84分には鮮やかなミドルシュートで3点目を決めている。

 こうしたプロ入り直後からの活躍を、安藤監督は「全く想像していませんでした。いまでも信じられない」と驚く。ただ高校時代との共通点を挙げ、「与えられた環境で伸びていこうとする姿勢は、瀬戸内高のときも持っていました。彼の人間性と鹿島のスタッフの指導が、いまの活躍につながっていると思います」と教え子のブレイクを喜んだ。

 日本時間19日(水)深夜1時30分キックオフのクラブW杯準決勝、レアル・マドリード戦は、鹿島にとっては延長の末に惜敗した2016年大会決勝のリベンチマッチ。安藤監督は「世界の舞台で、どんなプレーを見せてくれるのか楽しみです」と期待を寄せた。周囲を驚かせる急成長を続ける鹿島のライジングスターが、今度は世界中を驚かせることになるのかもしれない。

取材・写真◎石倉利英


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