東京五輪でU-24日本代表は苦しみながらも準々決勝を乗り越え、3日の準決勝・スペイン戦に勝てば、日本サッカーの歴史を塗り替えるところまで勝ち進んでいる。今から約3年前、都内で開かれたパーティーの席で森保一監督は、日本サッカー界のレジェンドを前にしてオリンピックに懸ける思いを口にしていた。

上写真=メキシコ五輪の得点王、釜本邦茂さんの紹介で挨拶する森保一監督(写真◎近藤俊哉)

ヒントになった「ファミリー」と「使命感」

 2018年10月21日、都内のホテルで銅メダルを獲得した1968年のメキシコ・オリンピックから50周年を記念するパーティーが開かれた。メキシコ五輪メンバー18人のうち、鬼籍に入られた8名と欠席した小城得達さんを除く、9名が顔をそろえた。

 杉山隆一さん、富沢清司さん、釜本邦茂さん、鎌田光夫さん、山口芳忠さん、鈴木良三さん、松本育夫さん、横山謙三さん、片山洋さん。日本サッカーの歴史を創ってきた錚々たるメンバーが一堂に会するとあって会場には約300人の関係者が集まった。

 その中の一人に、森保一監督もいた。五輪代表監督兼A代表コーチとして参加したロシア・ワールドカップを終え、A代表の監督を兼任することになって間もない時期。この会の直前にはウルグアイとの親善試合で勝利を収め(4-3)、新指揮官に対する期待感が高まっていた。

 パーティーに出席していた元日本代表の名ドリブラーが「あれこそが日本の持ち味。2列目の堂安、南野、中島がよかったねえ」と、日本のモビリティーと連動性を繰り返し絶賛していたことを思い出す。メキシコ五輪得点王の釜本邦成さんに紹介される形で壇上に上がった森保監督は、そんな背景もあって来客から大きな拍手で迎えられた。

「日本のサッカーの発展を、つないでいけるように頑張っていきたいと思っております。メキシコ五輪で銅メダルを取られた方々、諸先輩方の成功のヒントを今日いただいて、これから東京五輪に向けて、頑張ってまいります。東京五輪ではみなさんが期待していただいてるように、われわれは金メダルを獲得しようと、いま頑張っています。みなさんが見守っておられる日本のサッカーを、これからも発展させることができるように頑張ってまいりたいと思いますので、今後ともご支援、応援のほど、よろしくお願いします」

 森保監督は日本サッカーのレジェンドたちを前にして、金メダル獲得への強い思いを語った。会場が再び拍手で包まれたのは言うまでもない。

 パーティー終了後に森保監督に質問してみた。先輩から受け取ったという『成功のヒント』とは何か。

「今日のパーティ―で流れたVTRの中で最初に杉山さんが言っていた『ファミリー』という言葉、そして釜本さんが言った『使命感』という言葉がヒントだと感じました。われわれも、まずチームと一丸となって個の力をチームとして発揮していくファミリーになれるように、選手もスタッフも応援して下さる方も一緒に戦っていただけるようにしていきたいと思います。
 そして使命感については、本当に期待されていることは分かっているので。プレッシャーを力に変えて金メダルを獲得したいと思っています。選手たちも常に金メダルという言葉を言ってくれていますし、その目標に向かっていけるように、より厳しく、使命感をもってやっていきたいと思います」

 あれから3年。1年延期の末に開催された東京オリンピックの男子サッカー競技は準々決勝を終え、森保監督率いるU-24日本代表は4強に勝ち上がった。あの日、指揮官が話していたように、チームは周囲の期待を力に変え、しっかりと結果につなげながら、大きな『ファミリー』となって前に進んでいる。

 実はあの日、不躾ながら、もう一つ質問をさせてもらった。レジェンドたちの前で『金メダル』を口にすることにためらいはなかったかと。

「プレッシャーはすでにあるので。銅メダルを取るということも簡単なことではないですし、素晴らしいことです。ただ、日本で開催されるオリンピックですし、それ以上のものを、という思いで自分の覚悟と決意表明として、あの場で話させていただきました」

 指揮官は、3年前から変わらず金メダル獲得を目指してきた。8月3日に行なわれる準決勝のスペイン戦に勝てば、メキシコ五輪の成績を超える決勝進出、すなわち銀メダル以上が確定する。

「実は挨拶で言おうと思ったんですけど、メキシコ五輪は僕が生まれた年(1968年)にあったんです。だから勝手になんですが、自分はオリンピックに縁があると思っています。使命感を持ってやるんだと勝手につなげて思っています」

 メキシコ五輪の銅メダルから50年の節目を祝う趣旨で開かれたそのパーティーは『アステカの奇跡から東京へ』というメッセージが込められていた。「色んな先輩方がこれまでつないでいただいた、その歴史を、アステカの奇跡を東京につなげていけるようにしたいと思っています」。男子サッカー競技で唯一メダルを獲得した年に生まれた指揮官が率いるチームが新たな歴史を創る。物語のフィナーレとしては申し分ないだろう。

 あの日、森保監督が掲げた誓いを果たすまで、あと2試合。53年ぶりのメダル獲得へ、まずは3日、スペインとの準決勝に臨む。

文◎佐藤 景(サッカーマガジン編集長)


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