U-24日本代表はあす31日にU-24ニュージーランド代表と準々決勝を戦う。右サイドバック・酒井宏樹の出場停止に伴い、この重要な一戦で先発濃厚なのがチームのムードメーカーでもある橋岡大樹だ。長年、東京オリンピック世代の選手たちを現場で取材してきた川端暁彦氏によるコラム『五輪のツボ』。第4回は『常に全力で戦ってきた男』について綴る。

上写真=1次ラウンド最終節のフランス戦に55分から途中出場した橋岡大樹(写真◎JMPA)

文◎川端暁彦  写真◎JMPA

ムードを作り、酒井に学んできた

 無観客のスタジアムでピッチ内でのコーチングの声がよく通るなんて話はしばしば語られるが、もう一つ強く届く声がある。応援だ。「いや、客はいないだろう?」と思われるかもしれないが、声援を送るのは何もお客さんだけではない。ベンチに座る控え選手からの声もピッチにはよく届く。

「本当に橋岡とかがずっと声を出して本当にチームを鼓舞している」(MF相馬勇紀)

 時には怒られるギリギリまで飛び出して声を張り上げる。ロッカールームでは「あのときの声、助かったわ」なんて会話も交わされているそうである。相馬が「ベンチのみんな、仲間が倒された時はそいつを守りにいく」と言うように、一斉に反応し、共に戦う姿勢を示す。サポーターの存在を感じられない戦いだが、ピッチに立っている選手たちに孤独を感じさせてはいない。

「このチームのメードメーカーは誰ですか?」

 そんな質問が出ると、真っ先に名前が挙がるのが橋岡大樹だ。ポジティブなマインドを常に押し出し、周囲に笑顔を増やす力がある。何より素晴らしいのは、本人がそのことに前向きな点だ。大会前にはこんなことも語っていた。

「最近はムードメーカーと言われることが多くなってきていて、自分はそれも一つの役割かなと思っている。チームを明るくするだったり、チームをまとめて良い方向に持っていく部分、雰囲気を明るくするのは必要なことだと思う」

 森保一監督がメキシコとの第2戦で、最後に余っていた交代枠を橋岡に割こうとしたのも、当然戦術的な理由もあっただろうが、彼をピッチに出すことによって盛り上がるであろう雰囲気に期待したところもあったはずだ。ピッチ外で腐らず頑張ってきた男だけが持てる力である。

 そのメキシコ戦は投入直前で試合終了となるズッコケ展開となってしまったのはご愛敬。続くフランス戦では次の試合の出場停止が確定した酒井宏樹に代わって右サイドバックに投入されると、「いつ出場しても良いように常に準備してきた」という言葉どおり、攻守で質のあるプレーを見せてくれた。

 ピッチ外での役割の大切さを知っているからといって、ピッチ内ではたるんでいるというタイプではまったくない。トレーニングでも常に気持ちを感じさせてくれるし、苦手だったクロスの練習も地道に重ねてきて、その成果の一端はこの五輪でも見せた。記者への取材対応でも、軽い質問には軽く返してくれる一方で、サッカーについての質問には常に真摯な考えを伴った答えを返してくる。笑いを取れる男だが、サッカーに対して人一倍真面目でもあるのだ。

 大会前に語ったムードメーカーとしての役割についても、こう付け加えている。

「ピッチ内で自分の良さを思う存分に出して、もちろんピッチ外でもチームのために働きたいと思っています」

 間近でプレーを見ている同ポジションの酒井についても「分からないことがあったら聞いている。丁寧に教えてくれる酒井選手はものすごく優しいと思うし、そういう選手からいろんなものを盗んでいきたい」と謙虚に学ぶ姿勢を崩さず、尊敬の念を持ちながら向上心と挑戦心を持ってトレーニングに臨んできた。

 その酒井が出場停止となる準々決勝は、橋岡が初先発となる可能性が高い。誰もが認めるムードメーカーが、ピッチ内から新たなムードを作り出す。そしてラインの外では、いつも橋岡が担っていた役割を、他の選手たちがしっかり担って「声」を届けてくれることだろう。

著者プロフィール◎かわばた・あきひこ/2002年から育成年代を中心とした取材活動を始め、サッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画、のちに編集長を務めた。2013年8月をもって野に下る。著書『2050年W杯優勝プラン』(ソルメディア)ほか


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