上写真=メキシコ戦でチームの2点目となるPKを決めた堂安律(写真◎Getty Images)
文◎川端暁彦
かつての『若者』の成熟を感じる大会
「一喜一憂しない」
森保一監督から何度も聴かれていた言葉が、今大会は選手から多く聞かれている。選手の口から自然と出るくらいに、指揮官からも発せられているのかなと想像する。言ってみれば、一つのキーワードであり、チームカラーを表すような言葉ともなっている。
「前の試合(南アフリカ戦)のあともそうだったんですけど、このチームは明るいのに本当に一喜一憂しない。試合の終わったあとは次の試合へ向かってすごくストイックにやっている」(MF堂安律)
2連勝となったメキシコ戦の直後、MF遠藤航が「油断してはいけない」と強調していたのも、DF吉田麻也とMF田中碧が試合の入りが悪かった点を猛省していたのも印象的だった。田中はこんなことも言っている。
「自分たちにとっていい勉強になった。次に向けてやれることができ、いい意味で反省が出たのでよかった」
6分に生まれた久保建英の目覚ましい先制点がすべてをかき消していたが、確かにこの試合の立ち上がりは危なっかしいものだった。フランスとのグループステージ最終戦は、2点差での勝利を求める相手が立ち上がりからトップギアで来ることも予想されるため、迂闊な入り方は地獄への特急便になりかねない。あらためてその点は戒めておきたい。
最終戦には付きものの“星勘定を伴う駆け引き”も、ありそうな状況だ。日本の自力突破は「1点差負けまではOK」という非常に微妙な条件なので、仮に1点差で負けている状況や同点で終盤に入った場合、試合を終わらせる作業に入ることもあるだろう。ただ、今大会は似たようなときに交代で出た選手たちが軒並みゴールへ意欲的に過ぎた面があり、この点でうまくいっていないのは不安材料だ。
メキシコ戦で交代出場し、果敢に突破を図っていたMF三笘薫は「あの時間帯での判断として、サイドで起点をつくってもよかった。その瞬間の判断は『ゴールに迫れる』と思ったのでそう判断しましたけど、あとから振り返って見てみると、結果論とはいえ、そういう(ゴールへ向かう)判断をすべきではなかった。今はそう捉えられている」と語ったように、選手サイドからも反省材料としては出ている。もちろん展開次第ではあるが、試合のクロージングは再度大きなテーマとなるかもしれない。
開催国のプレッシャーをはね除けての2連勝。一喜一憂で言えば前者が大きくなり過ぎそうな流れであるが、チームの空気感にそうした浮ついたところは感じられない。オーバーエイジの3人が“そういうキャラ”というところも大きいだろうが、「今までの人生でこんなにも『チームのために』と考えたことがないくらい」と堂安が語ったように、かつて“若者”だった選手個々の精神的な成熟も感じる大会となっている。
一喜一憂することなく臨むフランスとの最終戦。ベテランFWジニャックを中心に爆発力を持ったチームだけに油断はできないが、突破条件の微妙さはもちろん、中2日で来る準々決勝に向けて主力をできれば温存したいという意味でも位置付けの難しいゲームである。とはいえ、そうおかしなゲームにはならないのではないかと思える安定感がチームに備わりつつあるのも間違いない。
著者プロフィール◎かわばた・あきひこ/2002年から育成年代を中心とした取材活動を始め、サッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画、のちに編集長を務めた。2013年8月をもって野に下る。著書『2050年W杯優勝プラン』(ソルメディア)ほか