文◎国吉好弘
上写真=森保一監督が掲げる「最高の景色を 2026」。「ワールドカップ優勝」を目指して進んでいく(写真◎高野 徹)
久保建英と鈴木彩艶の存在感
3月20日、日本がカタールを2-0で下し、3試合を残して史上最速、世界でも最初にワールドカップ予選を突破した。5日後のサウジアラビア戦は「消化試合」となったが、スタメンを6人入れ替えあくまで勝利を目指して戦い、0-0で引き分け。
2試合を通じて感じたのは日本代表のチームとしての成熟度と、選手たちの試合に臨む意識の高さだ。簡単に振り返っておこう。
バーレーン戦では相手がコンディションを整え、日本の戦いを徹底的に研究してきたことからボールを奪われるシーンが目立ち、パスも寸断されるなど前半は思うような展開ができなかった。しかし、日本の選手たちは慌てることなく、抑えるべきところを抑えて試合を進め、0-0で折り返す。後半に入っては田中碧、鎌田大地、伊東純也らの投入で流れを変え、上田綺世の巧みなポストプレーから久保建英が技術とアイディアを発揮するパスを通して中央突破、最後は鎌田が巧みなシュートを決めた。
終盤には久保が左CKからつないだボールをクロスと見せてそのまま蹴り込む鮮やかなゴールを決めて、終わってみれば完勝といっていい結果とした。この試合では特に、2点に絡んで守備の役割も忠実にこなした久保の成長、代表での存在感の高まりが際立った。
一方、サウジアラビア戦は高井幸大、菅原由勢、中村敬斗、前田大然が出場、バーレーン戦で途中出場した田中、鎌田もスタメンに名を連ねた。
この日のサウジアラビアは5バックを採用し徹底して守備を固め、これまでには見られなかった戦い方で挑んできた。日本はほぼボールを支配して前田、中村らがチャンスをつかむもののゴールを割ることはできず、この日も前半は0-0。これまでの試合やバーレーン戦のように後半に攻撃の圧力を高めて得点することの多かった日本だが、サウジアラビアのエルベ・ルナール監督はそのあたりの対策もぬかりなかった。
中でも、前半は好プレーを見せていた左サイドの中村と対峙していた右サイドバックのムハンナド・シャンキティに代えてアリ・マジュラシを投入すると、素早い寄せで中村のボールキープを許さず、攻撃の起点の一つを消す好采配を見せた。さらに守備の強度を高める相手に日本は攻めあぐむ展開が続き、最後までゴールをこじ開けることができなかった。
引いた相手への攻撃のアイディア、積極的な仕掛けがやや欠けた点は、森保一監督や選手たちも口を揃えたように課題として残った。それでもボールを失った後の素早い切り替え、そこから再度奪い返すプレーは随所に見られ、相手にはほとんど攻撃の糸口を与えなかった。その点は非常に良かったし、いつものメンバーで臨んだバーレーン戦よりも機能的だったから、選手を半数入れ替えても目指すプレーができることを示したと言えよう。それは、チーム全体になすべき戦い方が浸透しているからで、カタール・ワールドカップでのコスタリカ戦を想起させる展開ながら、今回はスキを見せなかった点は成長の証と言えるだろう。
中でもGK鈴木彩艶の安定感は特筆される。プレー機会が少ない中でも確かな判断と動きでピンチを未然に防ぎ、ゴール前を襲うボールには冷静に対処した。2024年アジアカップでの苦い経験を経て、ヨーロッパでも守備の厳しさではトップのイタリア・セリエAでもまれて大きく成長した。自信あふれるたたずまいは頼もしく、使い続けた森保監督の期待に応えた。
かつて英国の著名なサッカージャーナリストが「ワールドカップを優勝するようなチームには少なくとも5人のワールドクラスがいる」と主張していたことがある。それは確かに的を射た評論で、各大会の優勝チームがそれを証明してきた。
その説を今の日本に当てはめてみると、やや身びいきであることはご容赦いただくとして、三笘薫、久保はすでにその域に達していると言っても過言ではない。冨安健洋が万全なら彼らに続き、遠藤航、守田英正、堂安律、鎌田、上田らもクラブでのさらなる活躍次第で到達する可能性がある。さらに、これまで欧米のチームに比べて弱点とされてきたGKで鈴木がワールドクラスにあと一歩ということは、日本の個の高まりが実感できる事実だ。
もっともかつてとは異なり、近年のワールドカップで勝ち抜くにはレギュラーの11人に質の高い選手が揃っていれば十分ではない。森保監督が繰り返すように「2、3チームが必要」だ。ハイインテンシティーの戦いが続き、参加国が48に増える北中米大会では試合数自体が増える。ベストメンバーが揃えば勝てる時代は終わっている。
それでも選手層の厚さという点でも、今の日本にはヨーロッパでプレーする選手だけで3チームはつくれるだけの数が揃っており、夢を見させてくれる選手たちが続いている。サウジアラビア戦で初先発して見事なプレーを見せた高井のように、Jリーグでプレーして日々成長している選手も多い。
森保監督が公言し、選手たちもてらいなく発言しているように、日本代表は「ワールドカップ優勝」を本気で目指している。われわれもそれが実現する可能性があると思うことができる。
それこそがJ発足、ワールドカップ初出場、本大会8大会連続出場を経た日本サッカーの成長である。70歳を過ぎた筆者を含め、50年以上にわたってその浮き沈みと毀誉褒貶を見守ってきた者たちにとって、ワールドカップ優勝を現実として夢見ることができる、そのこと自体が大きな喜びである。