上写真=攻守に存在感を示した高井幸大。今後が楽しみだ(写真◎福地和男)
■2025年3月25日 北中米W杯・アジア最終予選8節(観衆58,003人@埼玉ス)
日本 0-0 サウジアラビア
緊張は力に変えた
ピッチの上でも、相変わらず大物感を漂わせる余裕たっぷりの物腰だった。
ワールドカップの出場権を獲得した直後の、本大会へ向けたリスタートとなるサウジアラビア戦。そこで、高井幸大が日本代表で初めて先発メンバーに選ばれた。
「楽しかったです」
というのが、当の本人の感想。なんともシンプルなのが本当にこの人らしい。ただ、緊張感があったことは認めた。そして、「それを力に変えられたと思います」とも。
でも、そんな緊張は彼のプレーからはかけらも見られなかった。サウジアラビアがほとんど攻めてこなかったから、ということを差し引いても、堂々たるプレーぶりは熟練のセンターバックのようだった。
守備でその能力を見せたのは、例えば44分。自分のサイドでカウンターを食らったのだが、長いストライドでブ・ワシュルに追いついたと思ったら、こちらから仕掛けて上半身を振って相手を惑わせ、緩んだその瞬間にボールと相手の間に体を入れて悠々と奪い返した。格が違った。
森保一監督も、その安定感を喜んだ一人だ。
「とても落ち着いていて、攻守ともにコントロールした試合の流れを作る大きな貢献をしてくれたと思っています」
こんなふうに始まる高井評は、まだまだ続いた。
「引いた相手を崩すために幅を使いながら、数的優位を作りながら前線に配球していく攻撃の起点としても彼の持っている技術を発揮してくれました。守備の部分でも、相手はカウンター狙いで、かつキープレーヤーの1人であるアルドサリ選手とマッチアップすることも多い中、しっかりリスク管理のバランスを保ちながら相手の起点を抑えるというところで、非常にいいプレーをしてくれたと思います」
もちろん「まだまだ伸びしろはあるので成長してほしい」と促すことも忘れなかったが、それは高井自身が真っ先に感じていること。
「予選も突破が決まっていたので思い切ってできましたし、やるべきことをやりました。悪くはなかったけれど、縦パスはもう少し差せたし、攻撃にもっと関与できたと思います」
攻撃では9分のシーンに高井らしさが満載だった。板倉滉からの横パスを受けて顔を上げると、混雑した中央のエリアの中にも一本のパスコースを見つけて、迷いなく差し込んだ。「いい縦パスを差せました」と喜んだそのボールを田中碧が受けてスルーパス、前田大然のシュートを引き出した。
「ブロックを敷かれた相手にどう攻めるかはどのチームも難しいと思いますが、前半は質で上回ることが大切だったと思います」
その質の一端を見せた一本のパスでも、強烈な印象を残した。
2023年のU-20ワールドカップ、2024年のパリ・オリンピック、Jリーグベストヤングプレーヤー賞と着実なステップアップを見せてきたが、日本代表としてのキャリアはまだ始まったばかり。
「まだスタメンを奪えていない現状があるので、奪うために自チームで結果を残して、代表に来たところでスタメンで使えるようなハイパフォーマンスを示すことが大事だと思います」
来年のワールドカップも「もちろん目指しています」と遠慮はない。
ところで、森保監督はこの2連戦における最大の発見を問われて、「最大と言いながら2つ、いいですか」と前置きして、真っ先にこう答えている。
「個人として、先ほども話した高井のポテンシャルと(彼がプレーする)Jリーグのポテンシャルを感じました」
わざわざ高井に言及するほど、そして彼を育んでいるJリーグの可能性にも感銘を受けたというわけだ。
センターバックにはこの日、3バックを組んだ板倉滉や伊藤洋輝のほかに、バーレーン戦でプレーした瀬古歩夢やベンチ入りした中山雄太、負傷の谷口彰悟や冨安健洋、町田浩樹、あるいは高井と同じように若い世代からの突き上げも加わって、ワールドカップまでにメンバー争いは驚くほど激化する。今後、4バックに戻すことになったとしたら2枠しかなくなる。
それでも、192センチという素晴らしいサイズとハイレベルな技術、そして何よりまだ20歳という伸びしろの大きさはとてつもない魅力だ。「まだまだ成長が足りないので、成長したい」と目の色が変わった若武者の行く末がなんとも楽しみになる90分だった。