上写真=ハットトリックを達成した上田綺世(右)と毎熊晟矢がハイタッチ(写真◎毛受亮介)
引いて守る相手に見せた多彩な攻め
2026年ワールドカップへの予選が始まり、その第1戦で日本代表はミャンマーを5-0で下した。FIFAランクを見るまでもなく、総合力では日本が数段上であり、5点差での勝利は順当ともいえるが、ワールドカップ本大会を目指す予選の初戦はこれまでいつも苦戦していた。予めそれを分かった上で臨んだ試合でもあったが、やはり相手が守りを固めて高いモチベーションで臨んでくる場合、こじ開けるのは簡単ではない。
しかし、日本は落ち着いていた。これまでのようにボールを支配してもなかなか崩し切ることができず、悪い流れになるということも無かった。ボールの動かし方にも緩急や角度の変化が見られ、一人二人飛ばすような工夫もあった。
開始11分で先制ゴールが奪えたのは大きく、その後も冷静にゲームを進め、積極的な仕掛けも見られた。先制ゴールは南野拓実がバイタルエリアでボールを受け、咄嗟に浮かしてペナルティーエリア内に入れたところに、上田綺世が走り込んでヘッドを決めている。南野のアイディアも上田のヘディングの技術も見事だった。背後からくる柔らかいボールを確実にGKの届かないところへ送り込んだ上田のヘディングは彼のストライカーとしての資質の一端を示していた。
加えて言うなら上田自身の2点目、堂安律のスルーパスに走り込んで右足インサイドでひっかけて流し込んだシュート、3点目のやはり南野が浮かして送り込んだボールを予測して走り込み右足のアウトサイドで流し込んだシュートも、優れた得点感覚とシュート技術の高さが表れていた。何より味方のパスの意図を予測していち早く動き出せる点、『こういう局面ではこういうシュート』というように、瞬時に選択できる発想と実行できる技術の多彩さが素晴らしい。所属するフェイエノールトで出番が増えていけば、今後代表のストライカーとして定着するだろう。それだけの資質を見せた。また、南野も自らのゴールはなかったが、前後半にエリア内に切り込むなど積極的な仕掛けと、二つのアシストのアイディアなど、引いた相手を崩すために効果的なプレーをした。
先制後の14分には左サイドの相馬勇紀が切り替えして送ったクロスに、さらにその直後にも毎熊晟矢の右からのクロスにいずれも上田が合わせ、19分には南野が強引にドリブルでエリアに仕掛けて上田とのワンツーを狙い、20分には中盤に持ち上がったCBの町田浩樹が鋭いミドルシュートを放って相手GKを慌てさせている。いずれも追加点とはならなかったが、右から左から、そして中央から、さらには遠目からとアイディアと積極性を示して相手ゴールに迫った。立て続けに様々な仕掛けでゴールに迫ったことが大勝につながった。相手は的を絞れず、対応に苦しんだはずで、当然スタミナも奪われていた。
28分に鎌田大地の鮮やかなミドルシュートが決まり、アディショナルタイムには前述の上田の2点目が決まって前半を3-0で終えた。後半にも開始早々に上田の3点目が決まり、その後は多少攻めあぐむ状況にもなったが、その間に森保一監督は新しい戦力やコンディションに不安のあった守田英正を試す采配も見せた。最後は一番得点への意欲を見せていた堂安律にゴールが生まれた。この相手に5点では物足りないという声もあるだろうし、特に14本もあったCKから1点も奪うことができなかったことは課題として残るが、守っては相手に1本のシュートも許さず、5-0という結果を残し、内容面でも今の日本代表の力を示した試合だったと言っていい。
しかも、森保監督は「一言でいうならベストの布陣」と、この日のメンバー編成について説明していたが、多くの点を考慮した上で選考だったのは間違いない。板倉滉や三笘薫らが不在で、冨安健洋もコンディションを考えてベンチ外。伊藤洋輝、菅原由勢、遠藤航、伊東純也、久保建英もベンチ留まり、これまで重要な試合でスタメンからプレーしてきた選手たちはほとんど起用していない上での「ベスト」だった。つまり、選手層は着実に厚くなっている。
親善試合とはいえ、ドイツやトルコ相手に多くのゴールを奪って6連勝したのに続いて、公式戦であるワールドカップ予選で守りに徹する格下の相手にも盤石の戦いを見せて7連勝を飾った。チームとして「一段階、二段階上に行った」ことを実感できる試合だった。
21日に対戦するシリアはフィジカルが強く、激しいプレーで挑んでくるチームであり、決して簡単な相手ではないが、それでも「やってくれる」と思わせる頼もしさが今のチームにはある。
文◎国吉好弘