上写真=池田太監督にとって最初の試合となるアイスランド戦へ。限られた時間でコンセプトを落とし込んでいく(写真◎JFA/PR)
「楽しみが、いまの気持ちの中では大きい」
誰に聞いても、とにかく「熱い人」。なでしこジャパンの新監督に就任した池田太その人の評判である。つまり、人によって、状況によって態度が変わらない、あるいは変えないということだろう。
情熱的であることが、新しいチームの原動力の一つになっている。ただ、池田監督にとっては、選手のメンタルを動かす計算や狙いがあってのことではないと説明する。
「熱さを持っていると言われることが多いですが、思っていることを素直に伝える部分で選手と接しているだけであって、意図的に出しているというよりは、自然の中で、という感じ方をしています」
一つひとつのプレーに気持ちをぶつけるのは、浦和レッズの現役時代からそうだった。監督の個性がチームの色を決めていく最初のきっかけになるとしたら、選手たちが口を揃えて「アグレッシブにプレーしたい」と力を込めるのは、まさに池田イズムの投影と言えるだろう。
もちろん、熱いだけが池田監督らしさというわけではない。例えば、数多くのミーティングをこなし、トレーニングの目的をしっかり選手に伝えてからピッチで実践していくというていねいさには、熱さとはまた別の冷静さが見える。
「熱さだけでは伝わらないことはあるので、ミーティングでは細かくというか、選手が迷いなくピッチに立てるように個人個人に話をすることもありますし、チームとしてサッカーのこともチームビルディングのことも話すこともあるので、そのバランスを考えつつですね。そのときに自分が思っていることを選手と共有しているという感じで進んでいる現状です」
国内組で行った10月の初キャンプに続き、海外組を組み込んだ今回のオランダ遠征では、来年1月のアジアカップに向けて貴重な実戦の場を迎える。アイスランドとオランダと戦うが、相手のことも分析しつつも、試合に向かってどうやってチームを導いていくか、という点でも「実戦」になる。
「なでしこというフル代表の中で初陣になりますが、楽しみな部分が多くて。いまのチームがヨーロッパのチームに対してピッチの上でどんなパフォーマンスを見せてくれるのか、ピッチに出ている選手、交代選手、スタッフも含めて、活動しているチームがどういう形で初戦を迎えて、いろいろなところで成果と課題を見ることができるという楽しみが、いまの気持ちの中では大きいところですね」
チームコンセプトを植え付けていく過程にあって、選手たちが最も強く反応しているのが「奪う」というワード。ボールを、ゴールを、勝利を「奪う」という、シンプルだからこそ深い意味のある単語が、選手を突き動かしている。
「相手の懐まで取りに行く距離感のところ、相手のボールの動かし方に離れずに粘り強くついていくことを求めています」
2018年のU-20女子ワールドカップで世界一に導いたホットでクールな男が求める「奪う」という世界基準。アイスランドとオランダを相手に、ボールを、ゴールを、勝利をどこまで奪えるか、最大の注目ポイントになるだろう。