アルビレックス新潟がルヴァンカップで決勝に進出した。クラブ史上初めてのことで、初戴冠への期待は日増しに高まっている。クラブの「歴史」をさらに塗り替える期待も、いまでしか経験できない「一瞬」を燃やす思いも、どちらも決勝のピッチでの力になる。

上写真=力強く拳を握り締めて喜びを表す松橋力蔵監督。決勝では、現役時代に日産自動車で共に戦った名古屋の長谷川健太監督と勝負だ(写真◎Getty Images)

「僕たちが先陣を切って」

 2024年10月13日は、アルビレックス新潟にとって記念すべき日になった。川崎フロンターレを破り、クラブの歴史で初めて「ファイナル」へと駒を進めたのだ。

 2003年に初めてJ2優勝とJ1昇格を決めて「ニイガタ現象」と呼ばれる熱狂が街を包んだが、17年にはJ2降格が決まった。5年の雌伏のときを経て、松橋力蔵監督が就任した2022年にJ2で優勝、再びJ1昇格を果たして、今年が2シーズン目になる。本州の日本海側で最大の都市のJクラブとしての自負を持ちながら、雪国の地方クラブとしての苦難も絶えない。そんなクラブが初めてたどり着いた、頂上決戦の大舞台。

 ルヴァンカップ準決勝では川崎フロンターレに4-1、2-0と連勝を収めて念願のファイナル進出を決めた。その直後にミックスゾーンに現れたキャプテンの堀米悠斗は、歓喜を爆発させるというよりも、神妙な面持ちだった。

「ここからはクラブとしてもそうですけど、新潟県のサッカーの歴史を変えるということも背負いながら戦います。新潟医療福祉大や帝京長岡高など、各カテゴリーで惜しいところまで行きながらも優勝できていない状況を、新潟のトップである僕たちが先陣を切って変えるチャンスがいま、目の前まで来ています」

 例えば、新潟医療福祉大は今年、総理大臣杯で準優勝だった。帝京長岡高も過去に高校選手権で3位にはたどり着き、今年のインターハイでは男女ともベスト4だった。アルビレックス新潟レディースも昨年、WEリーグカップ決勝に進んだものの、惜しくも敗れた。あと一歩。

 そんな新潟県のサッカーの未来のために…。堀米はクラブの初戴冠にその思いを乗せている。実現すれば、これこそJリーグが30年以上をかけて積み上げてきた「地域への貢献」の一つの健全な達成となるのではないだろうか。

「時間が過ぎ去ったときに」

 初めての決勝進出が、クラブの、チームの格を一つ高めることになった。優勝すればなおさらだ。

「もちろん歴史的なことだと言われれば、それはそれで非常にうれしい気もします」

「現場」で勝負に挑む松橋監督はわきまえている。喜ばしいが、目の前の戦いに勝ち続けることだけが、歴史を作るために必要なのだと訴える。湧き上がる期待が逆に負の吸引力になるのを阻止しようとするかのように。

「ただ、これは(いまのチームにとっては)1回しかないことで、一瞬のことだと思います。ですから、そのいまの一瞬を大事にすると考えれば、 いまいる選手で、いまいるスタッフで、いま我々を応援してくれている皆さんと、次のステージにどう進んでいくか、その『いま』をまずは大事にしたいと思います。その結果、時間が過ぎ去ったときに、何かそういうふうなことを目にできればうれしいかな、というぐらいです」

 過去という時間をいまの選手やスタッフに押し付ける必要はなく、いまの一瞬を悔いなく迷いなく戦うことを楽しむ意思表示だ。「目の前の敵が最強の敵」と唱え続ける勝負師だからこそのマネジメントである。

「新潟のサッカー」や「クラブの歴史」をいまのチームに重ね合わせることも、いまのチームだからこそ経験できる「一瞬」に思いを燃やすことも、どちらも大切なこと。それを、監督とキャプテンの言葉が教えてくれる。

 これこそ、決勝に進まなければ分からない感覚だ。そして、どちらにも共通するのは、「みんなでてっぺんに立ちたい」という強い思いである。


This article is a sponsored article by
''.