上写真=ゴール裏をびっしりと埋めたサポーターと決勝進出を喜ぶ。名古屋への「リベンジ」を誓う(写真◎J.LEAGUE)
■2024年10月13日 ルヴァンカップ準決勝第2戦(@U等々力/観衆21,159人)
川崎F 0-2 新潟
得点:(新)小見洋太、太田修介
※新潟が2勝で決勝進出
中3日の再建
●0-3名古屋グランパス。●2-3ヴィッセル神戸。●1-5川崎フロンターレ。●0-4鹿島アントラーズ。ルヴァンカップ準決勝を前に、アルビレックス新潟はJ1で今季最長の4連敗を喫していた。しかも、4試合で15失点と致命的。異論反論が選手たちの間から漏れ聞こえてきた。
立て直しは急務だった。鹿島戦からわずか中3日で川崎Fと戦わなくてはならないのだ。松橋力蔵監督は「話を聞く」マネジメントに注力した。
「目線を揃えただけです。選手からの話を僕もいろいろと聞く中で、彼らの中でもっとこういうふうにした方がいい、こういうところを出した方がいい、そういうものについて全員でしっかり目線を揃えようと。そこは堀米キャプテンが率先してやってくれました」
ボールを的確につなぐスタイルが自慢だったが、パスの出どころをふさがれてミスを誘い出され、奪われ、失点する場面が続いた。もっと素早く大きく運ぶべきではないか、いや、スタイルは続けなければならない……さまざまな意見が噴出した。それを取りまとめたのが堀米悠斗だったというわけだ。
そんなキャプテンは、チームに起こったことをていねいに説明する。施したのは「使い分け」の整理だった。
「リーグで4連敗したあと、ルヴァンカップの川崎戦のファーストレグまで3日ほどしかない中で、いろいろなところで選手たちが2〜3人で集まって話していました。僕もいろんな選手とチームがよかったときにどういう守備をしていたのかを話した結果、やっぱりミドルゾーンでちょっと引いて構えながらコンパクトにして守ることが、去年の終盤も今年のいい時期も自然とできていたよね、と」
課題は明確だった。
「4連敗と結果が出なくて、なんとかしなきゃっていう気持ちが先行してプレスのタイミングが早まりすぎて、結果的に広いスペースをそれぞれが守らなきゃいけないゲームが続いていました。だから、そこの修正だけできれば、自然と攻撃は良くなると思っていたんです。 そこはリキさん(松橋監督)とも話して同じような考えを持っていたので、じゃあそうしましょう、と」
改善策はむしろシンプルだった。
「不安や迷いというよりは、やらないといけないという気持ちが本当に強すぎて、前線の選手は試合開始から体力ある状態でガンガンにプレスに行っていて、それは分かるけれども、それだと後ろがちょっと苦しいよね、という話になり、プレスに行くタイミングと我慢してブロック組むことの使い分けでみんなの目線を合わせていけたんです」
ミドルブロックとコンパクト。その両輪を回すのは、ハートだ。
堀米は「出ていた選手が本当に悔しさをバネにしてしっかり戦った結果が、決勝進出につながったと思います」と付け加えることを忘れなかった。この2試合、堀米には出場機会は巡ってこなかった。それでも出られなかった自分も含めて、机上の理論だけに頼って勝ったわけではないという自負である。
「みんなサッカーうまいなって!」
堀米のいうミドルブロックでのコンパクトな集中守備は、絶大な効果を発揮した。特に3点のリードを持って臨んだ第2戦では、川崎Fがゴールを目指すためにときに6トップのような形で前線に人をかけた分、ビルドアップに関わる人数が少なくなって、新潟が出どころを抑えようとする守備がはまった。
特徴的だったのがFWの小さなステップの数々だ。相手のセンターバックとボランチを結ぶパスコースを、常に首を振って確認しながら、細やかにライン上に立ち続けて縦パスを制限した。もし超えられれば、ボランチの星雄次と宮本英治がハードにつぶしに出る。
右センターバックの舞行龍ジェームズは、後ろからそれを頼もしく見ていた。
「全体の距離感がよくて、中を閉めて相手をなるべく外に誘導させたので、細かくラインを上げ下げできましたね。ファーストディフェンダーが限定してくれていたし、それで稲村ともいい関係性で守れました」
センターバックでコンビを組んだ大学生の稲村隼翔も、プロの先輩たちの細やかな守備に助けられたと感謝する。
「4連敗している中で課題が明確になっていたので、第1戦の前にしっかりみんなで共有して、すり合わせてトレーニングして、それが結果につながりました。コンパクトに守るところ、縦に入ったボールには厳しくいくところの指示がリキさんからもあって、うまく表現できていたんじゃないかな。前線の選手がたくさん走ってくれたので、後ろに入ってきたボールにアタックしていくという明確な役割ができて、 守りやすかったですね」
それでも、修正のために時間はほとんどなかったのだと松橋監督は裏事情を明かしている。
「まずはボールに行くのか行かないのかの判断をしっかりすること。相手が有利な状況であれば、出どころをしっかり探してから出ていくのが一つ。あとは、後ろの選手がついて来ることができないのに、前の選手が先に行ってそこを突かれることは決してないようにと話しました。本当に短いセッションで、実はたった1回のセッションしかできなかったけれど、みんなが本当に高い理解度を示してくれました」
「ただ、セッションのときにはここまで完璧な感じではなかったんです。実際のゲームになって、リアルな戦いの中で、自分たちが出どころを見る場所とそこに対して自分たちがいかにコンパクトに保っていくのかは、この実戦の中で培っていけたと思います」
いわば即興に近い形だったというのだが、稲村は驚くことではないと話して、楽しそうに笑った。
「そういう選手たちの揃っているチームですからね。一言言えばみんな理解できますし、試合中の感覚的なところでもみんな頭を使って動いてる。それが新潟の強さです。めちゃくちゃ楽しいっすね。みんなサッカーうまいなって!」
ここからリーグ戦を2試合戦ってから、11月2日の名古屋グランパスとのルヴァンカップ決勝を迎えることになる。リーグでは14位と残留へまだ安泰ではなく、勝ち点獲得が大命題になるが、その戦いがクラブ初の決勝へとリンクしていく。
堀米の言うように、原動力は「悔しさ」だ。
「名古屋とはリーグ戦で悔しい試合をしています。準決勝の川崎戦も(1-5で敗れた)リーグのリベンジということが一つのテーマでもあったので、名古屋に対してもそういう気持ちでやり返すことができれば、いいゲームができるんじゃないかな」
4連敗中の最初の黒星が、その名古屋戦。0-3の完敗だった。クラブ初のタイトルがかかる大一番、という緊張を強いるような向き合い方より、やられた分をやり返すという闘志のほうが上回る一戦になりそうだ。