レイソルが本拠地を構える柏市の中心から国道16号線を10kmほど真っすぐ進むと、右手に見える丘の中腹に、鮮やかなグリーンのグラウンドがある。2023年に全面オープンした人工芝サッカー場『アルジャーノンフィールド柏』だ。
このグラウンドを作り出したのは、今年の全国高校選手権に初出場を果たした日体大柏高校のOBでもある秋谷雅義氏。中学時代に描いていた、『指導者になる』『自前のグラウンドとサッカークラブを持つ』という2つの夢を27歳で実現した。
「自分は選手としては二流以下でしたが、小・中学校時代のコーチがスタメン、リザーブをまったく関係なく選手を平等に叱ったり、接してくれる人でした。その姿を見て自分も指導者になりたいと思いました」
東京国際大学在籍時に都内のクラブで指導者としての第一歩を歩み出した。しかし、前任者が突然辞めてしまったために、いきなり担当学年を持つことになった。早くもやりたいことができるチャンスだったが「教えようとしても何もできない」ことを痛感。指導法を学ぶため、思い切ってドイツへ飛んだ。
半年間を過ごしたドイツでは、自分の意見を遠慮なく、どんどん主張してくる子供たちに圧倒されるが、その厳しい環境の中で多くを学んだ。デュッセルドルフ、ミュンヘンと渡り、そこで得たものを日本の子供たちに還元しようと決意した。
帰国した秋谷氏は東京、茨城のクラブを渡り歩きながら指導を重ねていった。様々な環境を経験し、コロナ禍で借りていたグラウンドが使えなくなるという状況にも直面した。「良い指導をするには良い環境でなければならない」と、自前のグラウンド作りに着手する。祖父の逝去後、空き地になっていた土地にサッカーグラウンドが一面取れる広さの人工芝グラウンドを自前で作り上げた。
「お世話になった方から、ヨーロッパの最先端人工芝を輸入しました。最初は業者に施工してもらおうとしたのですが、うまくいかない部分があり、結局は下地からほとんど自分たちで作り上げました」
ピッチには大きなこだわりがある。秋谷氏自身が選手時代、怪我に悩まされたため、膝や腰への負担が大きい硬いグラウンドはどうしても避けたい。プレー面、素材、そしてクッション性など体に優しい人工芝グラウンド作りを目指した。ドイツ時代に、指導だけでなく、グラウンドの作り方も学んでいたことが、大いに役立った。
秋谷氏の原点にあるのは、地域の子供たちのための場所を作ること。
『子供たちの遊ぶ場所が減っている』
『地域に人工芝サッカーグラウンドのあるクラブやスクールでプレーしたいが、なかなかない』
『チームでプレーしたいが、人数が足りない』
といった悩みを解決することだった。
「どのようなレベルの子もここに来ればサッカーの面白さを知り、その楽しさを学びながら成長することができます。緑の人工芝があるだけで、子供たちの目が輝くのです。僕らもやっていて気持ちいいですしね」
サッカーでは、試合になればスタメン、リザーブが存在する。そのような厳しさもあるが、サッカーのレベルに関係なく、全員を大切にして、ボーダーを取り払って平等に接していきたいという。
「やるからには本気で取り組んで、上手くなってほしいです。指導者として厳しい決断をすることもありますが、凄く真面目な子、少しヤンチャな子、どんな性格・人種・ジェンダーでもボーダーレスに受け入れています。それが私たちのクラブ名『ボーダーレス』にもなっています。僕の尊敬する氷室京介さんのアルバムから取った名前でもあります。アルジャーノンも彼のアルバムからです。世代は違いますが、親の影響で大好きになりました」
過去にはこんなこともあった。秋谷氏が東京のクラブで指導をしていた際、前の所属クラブで差別を受けた外国籍の子がやってきたのだ。移籍後はそのような問題もなく、楽しくプレーできるようになり、「日本に来て良かった」と言ってもらえたという。まさに、サッカーには国境がない、ボーダーレスという考え方の原点となる出来事だった。
「スポーツの素晴らしさをここで味わって、行けるところまでとことん行ってほしい。プロになることができれば、それは当然素晴らしいことです。でも、たとえプロになれなくても、ずっとサッカーを好きでいてほしいですね」
最寄り駅は東武アーバンパークラインの高柳駅だが、3.5kmも離れており徒歩では40分以上かかってしまう。決してアクセスは良くないが、その土地ならではの利点も生かそうとしている。
「アクセスが悪い分、設備にお金を掛けられた部分もあります。クラブハウスの中には、練習の前後にみんながコミュニケーションを取れるスペースを作りました。それにこの地域は空気が澄んでおり、プレー環境は凄く良いです」
Jリーグがオフの時期、自主トレでこのグラウンドを利用したプロの選手たちにも好評だった。
『自然の中で周りが静かなのが凄く良い。高台なので周りからも見えない』
周りに何もない環境が逆に高評価だった。さらに、畑に囲まれた立地を生かして、将来は子供たちが農業体験をできるようなプランも練っているという。
FCボーダーレス柏サッカースクールは今年4月にスタートしたばかりだが、すでに多くの子供たちが集まってボールを蹴り、元気にピッチを走り回っている。
「今、自分は夢の真っただ中にいる。ここに来てくれる子供たち、保護者、スタッフとともに、この夢から覚めないように前に進んでいきたい」と秋谷氏と笑顔を見せた。