横内昭展監督が今季から就任した新生ジュビロ磐田はJ2で4試合を終え、1勝1分2敗の成績で15位につける。J1復帰を目指す中、現在は負けが先行し、上位に中位以下に沈むが、最適解を見いだしつつあるようだ。中盤で遠藤保仁とボランチコンビを組む針谷岳晃が大いなる可能性を感じさせ始めている。

上写真=徐々にその実力をピッチで発揮し始めている磐田の針谷岳晃(写真◎J.LEAGUE)

最高峰のプレーを隣で学ぶ意義

 0-0で迎えたアディショナルタイムも予告された5分に迫ったところで、交代出場していた大宮アルディージャの泉澤仁が左サイドでボールをキープすると、右足で大きくクロスを送る。逆サイドから走り込んだCBの袴田裕太郎がヘッドで折り返し、ゴール前でアンジェロッティが頭で押し込んだ。土壇場の決勝ゴールで、ジュビロ磐田を1‐0で下し大宮がホームのスタンドをほぼ埋めた観客の前で今季2勝目を挙げた。

 前節ではアウェーでロアッソ熊本に0―3の完敗を喫し、1勝2敗と負けが先行したチームとって大きな勝ち点3獲得となった。相馬直樹監督も堅守が光ったGK笠原昂史を中心としたディフェンス陣の健闘を称えるとともに「(強調してきた)球際の部分で選手たちがよくやってくれた。90分間を通してとまではいかないですけど、『何か変わった』と思わせるアルディージャを見せることができた」と手ごたえを語った。

 チームとして戦い、勝利を手繰り寄せたことは大宮にとって重要で、今後につながるきっかけにもなるだろう。ただし、90分を通して試合を支配していたのは磐田だった。43歳となり、なお健在(驚くべきことだが)の遠藤保仁と、FIFAから補強禁止の処分を受けた苦しい新チーム編成の中で、レンタル先のギラヴァンツ北九州から復帰した25歳の針谷岳晃が組むドイスボランチが中心となってボールを動かし、ゲームをコントロールした。そこから多くのチャンスを生み出したが、シュートはことごとくGK笠原のセーブとDFのブロックに遭い、あるいは枠を逸れた。

 今季から磐田の指揮を執る前日本代表コーチで森保一監督の参謀的存在だった横内昭展監督が「前半は準備してきたことができたし、後半もわれわれの時間が長くチャンスも作ったが、完結できなかった。そこが課題です」と語ったように、今季狙いとしている「全員がボールにかかわるサッカー」は実践できていた。

 遠藤については説明不要だろうが、針谷もボールスキルが高く、決定的なパスを出すことができるセンスは特別なものがある。かつて東京オリンピックを目指す世代がU-18代表として立ち上げられた頃には中盤で主力を担い、将来を嘱望されていた。しかし昌平高校から磐田に入ってプロとなると、小柄で細身なフィジカル面の問題もあってなかなかポジションを得ることはできず、北九州へ貸し出されて実戦経験を積むことになった。そして今季、横内監督の眼鏡にかなって開幕からスタメンで起用されている。

 開幕戦ではハードワーカーの山本康裕とボランチを組み、前半で遠藤と交代となった。しかし、第2節では遠藤とのコンビでスタメン出場、88分までプレーし、遠藤はフル出場。山形を相手に初勝利を飾った第3節では針谷がフル出場し、遠藤は84分までプレー、そしてこの日は遠藤がフル出場、針谷は85分に退いた。ここ3試合は遠藤と針谷のコンビが中盤を支えている。

 ボランチといえばふつうは「守備的MF」を指し、2人で組む場合には少なくとも1人は守備能力に長けている選手が使われるケースが多い。イビチャ・オシム風に言えば「水を運ぶ人」が欠かせない。遠藤と針谷のコンビはともにテクニックとパス能力に優れるタイプで、守備の面ではリスクがあるように感じられる。しかし、横内監督は「もちろん2人には守備のタスクを課していますし、守備が弱いイメージがあるかもしれませんが、しっかりやれている」と気に留めていない様子。

 確かにこの日のように2人がパスをやり取りしていると、相手のプレスが及ばない位置とタイミングでボールは動いて、失うことはほとんどない。そこから的確なタイミングで縦パスやサイドへのパスが入る。ボールを握る時間は長くなり、主導権を掌握する流れになる。

 遠藤と並んでプレーすることは針谷にとって大きく成長するチャンスだろう。パス交換の中ではお互いに通じ合っていると感じられる場面が見られ、それぞれが相手を見ていないような位置にいても何気なくボールが行き来していた。針谷も「(パスの出るタイミングや角度が)感覚で分かるのでやりやすいし、何かを言われることはないのですが、プレーを見て学んでいます」とタイプの似ている選手の最高峰のプレーが、その成長を促しているようだ。

 チームがここまで1勝1分け2敗と、結果が出ていないことは問題だが、その要因は前述したようにチャンスに決め切れないことが大きい。中盤の構成力は発揮されており、見る者を楽しませる内容も提供している。遠藤のコンディションが良い状態で維持されていくのかは年齢を考えれば不透明ながら、守備のリスクはある程度覚悟しながらも2人を中盤の中央に並べて、多彩な展開ができるチームを作ろうとしている新監督の心意気は頼もしい。スタイルは異なるが、ボールを支配してゲームをコントロールするサッカーは全盛を誇ったかつてのジュビロにも通じるもの。目指すサッカーの質を高めながら結果を残すことにも期待したい。

取材◎国吉好弘


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