アルビレックス新潟のFW鈴木孝司が、8試合ぶりの出場で一矢報いた。5月15日の明治安田生命J2リーグ第16節、FC町田ゼルビア戦で75分から登場すると、アディショナルタイムに自ら獲得したPKを決めた。新型ウイルスの陽性者が出た難しい1週間で、経験豊富なストライカーの意識がチームを奮い立たせた。

上写真=鈴木孝司は75分からピッチへ。アディショナルタイムに自ら獲得したPKを決めた(写真◎J.LEAGUE)

■2022年5月15日 J1リーグ第16節(Gスタ/6,287人)
町田 2-1 新潟
得点者:(町)山口一真、鄭大世
    (新)鈴木孝司

「ボールを回すことが目的ではありません」

 鈴木孝司は4月3日のロアッソ熊本戦以来、1カ月半ぶりのピッチに立った。相手は古巣のFC町田ゼルビア。0-2というビハインドで迎えた75分、アレクサンドレ・ゲデス、小見洋太とともに入ってゴールを目指した。

 90+2分、ペナルティーエリア右で藤原奏哉の短いスルーパスから抜け出そうと前を向いた瞬間に、相手にユニフォームを引っ張られて倒された。PK獲得だ。これをきっちりゴール左に決めて、90+4分に1点を返した。熊本戦でもアディショナルタイムに劇的な決勝ゴールを決めていて、「出れば決める男」の面目躍如だった。

 右膝には痛々しいほどテーピングが巻かれている。万全な状態ではない。チームも新型ウイルス感染症の陽性者が出て、メンバーの組み換えを強いられていた。それでも勝つために、ベンチから町田の堅守を壊すための方法をいくつも頭に思い描いていた。

「相手のプレスをいかにはがすかに力を注ぎすぎていると思っていました。だから、後ろが重いなと。(谷口)海斗の周りに誰もいなくて孤立していたので、自分が出たら距離感を良くして、孤立させないようにしようと」

 どれだけこちらがボールを持っていても、ボールを奪いにくる相手を待ってからはがそうとする、という思考の順番では、その時点で相手に主導権を握られていることになる。相手の戦い方をよく見るのは当然として、こちらからアクションを起こす方法に切り替えたかった。

「相手とは逆に動く選手がいたり、相手に自分のことをわざと見せることでボール保持者をフリーにしたり」

 相手の視野から消えれば自分が優位になるメリットはあるが、一番大事にしなければならないのはボールであり、ボールを持っている選手。そこを守るには、逆に自分が相手に見つかりやすいところに立って注意を引き付け、ボールへの集中力を分散させるという逆説的なポジショニングを取ればいい。

「嫌らしいポジションに入ったり、相手の中間に立ったり、自分が立つ場所によって相手を出ていけなくしたり」

 場所にまつわる創意工夫の必要性を、ピッチの外でも中でも感じていた。PKを獲得したシーンはまさに、自分を相手に見せてボールの出どころを隠したことで、パスが出たあとにターンした鈴木の動きに相手がついてくることができなくなって、ファウルを誘うことができたものだ。

「サッカーはゴールを取るスポーツなので、ボールを回すことが目的ではありません。手段としてボールを回して、ゴールを取ることに力をもっと配分すればよかったと思います」

 試合は1-2で敗れた。「アクシデントがあった1週間で、チーム一丸となって戦えたと思いますが、勝ち点に結び付けられなかったことが悔しい」が本音だ。それでも、「ボールを持つ」ポリシーにありがちな、間違った思考の穴に落ちないように、という鈴木の意識が、2022年の新潟スタイルを実行するための頼もしいよりどころになっている。

取材◎平澤大輔 写真◎J.LEAGUE


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