上写真=人格者としても信頼を集めるアルベルト監督。新潟を正しい道に導こうとしている(c)ALBIREX NIIGATA/J.LEAGUE
「特に私がしたことはありません」
アルビレックス新潟のMF高木善朗が、開幕から絶好調だ。
今季はすべての試合で先発出場、6ゴールはもちろんチームトップで、リーグでも3位タイ。アシストも6つだから、チームが挙げている24ゴールのうち、半分は高木が関係していることになる。昨季の1ゴール3アシストから大きくステップアップする数字を残している。直近のJ2第9節栃木SC戦でも、大きな話題になった矢村健の完璧なオーバーヘッドシュートを、絶妙のストレートクロスで導き出している。
信頼して起用し続けているアルベルト監督は、就任2年目。昨年と今年で、高木に対する声掛けに一体どんな変化を加えたのだろうか。
「特に私がしたことはありません」
そう話し始める。
「ただ、唯一したことがあるのは、彼に自由なプレーするのを許したことです」
4-2-3-1の配置において、高木は1トップの後ろのエリアを託されている。そこで目立つのは、サイドハーフやサイドバックがボールを持ったときに、相手のサイドバックとセンターバックの間の裏側のスペースに入り込む斜めのランだ。あるいは、中央から近寄ってサポートに入りながら、サイドバックやサイドハーフを押し出す役割もそう。もちろん、昨季も得意としていた、相手のボランチの裏、センターバックの前のスペースで浮遊するようにうごめいてボールを引き出す動きもこなしつつ、だ。
アルベルト監督が説明を続ける。
「プレイステーションで楽しんだ方がいい」
「善朗、彼はヨーロッパ的な選手だと思います。なぜかというと、試合の状況に応じて適切な判断を常に下すことができるからです」
まさに相手の状況を見ながら嫌がられるスペースを見つけているから、チャンスを数多く作り出せるのだ。その瞬間、相手が最も困るのは裏なのか、手前なのか、サイドなのか、センターなのか。それを的確に選び取っている。
「攻撃だけかというとそうではなく、守備面でも状況に応じた判断を下し続ける賢い選手です」
新潟は今季、即時奪回のフィロソフィーが浸透して、相手陣内で強奪しては、ショートカウンターをいくつも繰り出している。高木の守備の判断と周囲の連動がその源だ。
「彼のような賢い選手に対して与えるべきなのは、自由だと思います。試合の中で起こりうる状況によって選択肢を提供して彼の判断に委ねます。それが重要なのです」
これがまさに、アルベルト監督のフットボールへの向き合い方だ。
「選手をロボットのように動かしたくなる監督もいますが、そういう監督は生身の人間を指揮するよりプレイステーションで楽しんだ方がいいのです」
強烈なアンチテーゼだ。アルベルト監督はフットボールをエンターテインメントだと信じている。言うのは簡単だが、選手たちにピッチで表現してもらうのは恐ろしく難しい。崇高な目標を掲げながら失敗してきた指揮官は、世界中に星の数ほどいる。現にアルベルト監督も2020年は苦しみ抜いて、理想からは遠く離れた場所で現実に向き合う時間が長かった。
しかしいま、少しずつ前に進んでいる。9試合負けなしのクラブレコードはその結実だが、内容を見れば正しい道を進んでいるのは明らかだ。それを阻止しようと厳しく戦うチームが次から次へと立ちはだかる。4月24日の第10節で戦う愛媛FCもその一つ。
「明日の試合はとても魅力的な、しかし難しい試合になるでしょう。私たちはやるべきスタイルを貫きつつ、選手一人ひとりの成長を促して進んでいきます」
本物になるために、彼らを堂々とはねのけるための日々は続く。