この連載では2020年シーズンのJリーグで注目すべきチームやポイント、見所を紹介していく『Jを味わう』。連載第11回で取り上げるのはJ2で快進撃をみせるアビスパ福岡だ。長谷部茂利監督は引いも出ても強いチームをつくり上げた。

奪取速攻、ときどき遅攻

画像: プレーにメリハリを効かせているのがキャプテンの前寛之だ(写真◎J.LEAGUE)

プレーにメリハリを効かせているのがキャプテンの前寛之だ(写真◎J.LEAGUE)

 奪取速攻、ときどき遅攻。これが凡百のチームにはなかなかできない。あっけなくボールを手放し、再び守りに回って、どんどん体力を消耗してしまう。試合の流れや展開を無視した速攻一本槍の弊害だ。前という明晰な頭脳がそうした状況を回避し、チームに利得をもたらしている。

 とにかく、前と松本泰志の攻守両面における貢献度は計り知れない。手堅い守りはもちろん、攻めに回った際にボールを失わない。トップへの鋭い縦パス、ワイドオープンを狙った対角パス、さらにはライン裏へのタッチダウンパスまで繰り出すのだから、守備側はお手上げだろう。

 前や松本に象徴されるとおり、攻守の優先順位が整理された組織の中で、個々の持ち味が十全に生かされているのも大きな強みだ。通常、引いて守っている状況から逆襲に転じるのは難しいが、福岡にはそれを可能にする武器がいくつもある。第一に最前線でターゲットになる屈強の巨人ファンマの働きだ。自陣の深い位置からも最終ラインは迷わずロングボールを使って敵のプレスを回避し、陣地を回復できる。

 推進力に秀でた両翼の働きも大きい。とりわけ右翼の増山は一気に敵陣までボールを運べる高い技術と破格の走力を持っている。彼らの特殊能力があるからこそ、堅守速攻も見事に機能するわけだ。また、右サイドバックを担うサロモンソンは精密なクロスマシと化し、上島拓巳とグローリの2センターバックは圧倒的な強さと高さを誇り、自陣と敵陣の両ゴール前で優位に立つ。

 こうした多士済々の顔ぶれが適切な判断を共有しながら一体の巨人のように立ち回るのだ。道理で強いわけである。あえて課題を挙げれば、先に失点して、相手にがっちり守られた場合だろう。ただ、この連勝中に幅を使いながら、前や松本がハーフスペースからライン裏へ走り込み、ゴール前へ折り返す新たな仕掛けを施すなど、攻め手を広げつつある。

 いざとなったら、フアンマや上島やグローリの高さを生かしたハイクロスやセットプレーといった奥の手も使えるのだから強い。先発の入れ替えが避け難い中2日の一戦はカギとなるが、そこで粘り強く戦い、勝ち点を積み上げれば、昇格への視界がさらに開けるだろう。そんな好位置につけながらも、長谷部監督は「まだまだ改善の余地がある」と貪欲だ。つまりは、まだまだ強くなる。最強アビスパ、恐るべし――。


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