この連載では2020年のJリーグで注目すべきチームやポイント、見所を紹介していく『Jを味わう』。連載第9回目はJ2のジュビロ磐田を取り上げる。フェルナンド・フベロ監督が下した決断によって、今、チームが変貌しつつある。

上写真=伊藤洋輝(中央)は日に日に存在感を高めている(写真◎J.LEAGUE)

文◎北條 聡 写真◎J.LEAGUE

3-4-2-1への布陣変更

 逆襲の布石――かもしれない。

 ジュビロ磐田の新システムだ。敵地に乗り込んだ13節の町田ゼルビア戦で従来の4-4-2から、オプションの3-4-2-1へ布陣を変更。フェルナンド・フベロ監督の狙いは直近の6試合でことごとく失点を重ねた守備のテコ入れにあった。

 結果、町田戦は0-0のドロー。勝利こそ逃したが、実に7試合ぶりのクリーンシートを手にする。この新布陣はあくまでオプションの一つという位置づけだったが、次節のツエーゲン金沢戦でも継続し、6-0の大勝を収めた。2戦連続無失点にゴールラッシュのおまけがついたわけだ。

 いったい、何が改善されたのか。

 今季の磐田は新たなゲームモデルの実装にトライしてきた。攻撃の要諦である幅と深さをフルに使ったアタッキング・フットボールだ。その一大特徴がミドルレンジやロングレンジの高速パスを多用したビルドアップにある。

 重要キャストは上原力也と伊藤洋輝だ。

 上原が右後方から、伊藤が左後方からロケットのような対角パスを繰り出し、敵のプレスをやすやすとかいくぐっていく。一発でサイドを変えられてしまうのだから、守備側はたまったものではない。ボールサイドに素早くスライドして圧力をかけても、ほとんど効果がないわけだ。

 守備側が最前線に2人並べてプレスをかけてくる場合、山田大記とドイス・ボランチを組む上原が最後尾に下りて、2センターバックとビルドアップの基点になる。実際、そうなるケースが多かった。この仕掛けに上原、伊藤の<特殊能力>を絡めたビルドアップの妙は数字にも表れている。1試合平均のボール保持率は59%。J2では東京ヴェルディに次いで2番目に高い。

 ただし、攻守の両面で副作用もあった。

 攻撃面のそれはタッチライン沿いの「渋滞」である。後退する上原と入れ代わるように前進するサイドバックと味方のサイドハーフのポジションがしばしば重なったからだ。そのぶん、中央のゾーンで山田が孤立。後方から前線につける縦パスが敵の網にかかると、山田だけでは広いスペースをカバーし切れず、速攻をまともに食らうケースが少なくなった。

 左サイドハーフに神出鬼没の大森晃太郎が定着して以降、攻撃面で改善の兆しが見て取れたが、守備面における潜在的なリスクを抱え、失点がかさんでいる。そこで事態を好転させる手立てとして新システムの採用に踏み切った格好だ。

 果たして、その効果は大だった。

 上原は中盤に留まり、相方の山田と密接にリンクしながら攻守に躍動。さらに大森、ルキアンのダブル・シャドーがファジーな位置取りで縦パスを引き出し、中央からの仕掛けとサイドアタックの双方に絡むキーパーソンとなった。

 金沢戦の先制点が象徴的だ。ハーフスペースでボールを呼び込み、ライン裏へ抜け出たルキアンの折り返しを小川航が押し込んでいる。右サイドの高い位置に崩しの基点ができたのは大きい。


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