「甲府だから今もプレーしている」
ーー奥深さとは具体的には、どういうことでしょう。
山本 とくに試合の胆(きも)に関わる部分ですね。そこでそのプレーをしてしまっては絶対にいい流れが来ないというプレーを、若いと安易にやってしまうケースがある。たとえばディフェンスラインの話で、このタイミングのこの角度だったら、絶対にここにパスが出てこないのに、最適なポジションを取れない。結果、試合の流れを相手にみすみす渡してしまう。そういう些細だけど大事だと思うことを、一緒にプレ―する中で教えたい。
ーーそれはある意味で、若い選手にはない、山本選手自身の強みでもあるのではないですか。
山本 もちろん若い選手と、そういう部分で張り合っていかなければ、とは思います。ただそれを自分のものだけにするのではなく、チームに還元したいとも思うんですよ。
ーー勝負の胆を察知する感覚というのは、キャリアを重ねて初めて手にできるものでしょうか。
山本 どうですかね。僕自身は、気づくのが遅かった。30歳くらいになって初めてサッカーが奥深いなと感じるようになったし、こういうときはこうなんだなって考えるようになりましたから。でも、そのときには、感じたことを実現するためのフィジカルが少し落ちてきていた。だから、若い選手が早い段階でそれに気づけば、もっと成長できる。今は、自分もそういうふうにやりたかったなと思いつつ、みんなに伝えていますね。
ーープロ選手として歩き出したとき、あるいは甲府に来た2003年、自分が2020年に現役でいる姿を想像できましたか。
山本 いや、まったく。僕が若い頃って、28歳から30歳くらいの選手をベテランと言っていた。だから漠然と30歳くらいまでサッカーができたらいいな、とは思っていましたけれど。
ーー多くの選手が30歳前後で現役を退く中で、ご自身の努力があったにせよ、40歳になるシーズンも現役でいられるのは、なぜだと思いますか。
山本 バウルさん(土屋征夫/13-17年に在籍)とか伊東輝悦さん(現沼津/11-13年に在籍)とか、その年齢までやっている選手をすごく近くで見られたことが自分にとっては大きかった。あとは、ほかの選手のことは分かりませんが、ヴァンフォーレ甲府というチームとの関係があってこそ、ここまでプレーさせてもらえていると思っています。
ーー土屋さんや伊東選手とプレーしたことも含め、このチームに入ったことは山本選手にとって本当に大きかったのですね。
山本 誤解を恐れずに言うと、これまでクラブとの関係がすべて良好だったわけではないんです。もちろん関係が悪いわけでもないんですが、たまにはお互いの主張をぶつけ合いケンカもしたし、言い合うこともあった。でも、結論としてクラブと同じ志を持ってやってきたと自分では思っています。そして、そう思えるチームでプレーできたのは、僕は本当に恵まれていたんだと感じます。