上写真=今季開幕戦(対山形)で2得点を挙げた磐田の小川航基(写真◎J.LEAGUE)
文◎北條 聡 写真◎J.LEAGUE、Getty Images
迷いがなく動きに無理がない
好機を生かし光輝を放つ高貴な男――それが、ジュビロ磐田の小川航基だ。
背番号9が本当によく似合う。日本サッカー界では数少ない正統派のストライカー。偽装いらずのリアル9(センターフォワード=9番)だ。
昨今は前線のさまざまな場所で器用に立ち回る汎用性の高いフォワードが目につくが、こと小川に関しては別のポジションにつく姿を想像しにくい。点を取ることに特化したストライカーとは、それくらい特殊な仕事だという証だろう。
2トップの一角に据えるなら、プリマ・プンタ(イタリア語で第1フォワード)の役回りを託したい。天体にたとえると惑星だ。その周囲を動き回る衛星のような人を相方に選べば、まず間違いと思う。最後の仕上げは小川に任せればいい。
もとより、点を取る才覚は十分だ。
右足でも左足でも頭でも、上からでも下からでも、中からでも外からでも、やすやすとネットを揺らしてみせる。しかもフィニッシュに持ち込む一連の動作が実にナチュラル。考えるよりも先に体が勝手に動いているかのようだ。
迷いがないかどうか。
点取り屋にとっては、そこが凡庸と非凡を分ける境界線なのかもしれない。時間も空間も限られたゴール前ではそれこそ迷っている暇などないからだ。小川には迷いが、ない。いや、迷う場面が少ない。ボールが来た時点でシュートに至る段取りが出来上がっているからだろう。
いつ、どこでボールもらい、どこに、どう打つか。多様な情報を処理し、最適のシナリオをはじき出す能力がきわめて高い。だから仕事が速いのだ。動きの一つひとつに無理がない。ツボにはまったときの姿は冷徹なマシンを思わせる。
敵の視野から消える動きの鮮やかさ、フリーでシュートを打つ位置取りの良さ、こぼれ球を拾う嗅覚の鋭さ。どれもこれも生粋のストライカーのそれだ。これまでに数多く積み上げてきた成功例を体が覚えているのだろう。公称186センチという恵まれたサイズを少しも持て余すことなく、上手に使い切っている。そういう選手はなかなかいない。
しかも、やけに記憶に残る人だ。
今季の開幕戦でも磐田を勝利に導く祝砲2発。スタメン起用に一発回答だった。不思議と耳目が集まる一戦で本領を発揮する。2018年のJ1参入プレーオフもそうだった。負けられないという重圧の中、苦もなく先制点を叩き出し、東京Vの野心をへし折った。