上写真=バングーナガンデ佳史扶が苦しいときを乗り越えて、ピッチに帰ってきた(写真◎J.LEAGUE)
すごく大事な、特別な番号
――バングーナガンデ佳史扶選手は今季から背番号「6」を身に着けて戦っています。その番号をかつて着けていた小川諒也選手が加わったチーム、鹿島アントラーズとの対戦が迫っていますね。8月10日に味の素スタジアムで激突します。
バングーナガンデ佳史扶 背番号6については以前も何度か打診してもらっていたのですが、そのときは自分の中ではまだまだ…という感じでした。でも、いろいろなタイミングが合って覚悟を持って、今季から背負うことに決めました。
諒也くんのほかに同じく「6」だった太田宏介さんにも連絡させていただきましたし、諒也くんからは「いいじゃん!」ってメッセージをいただいて、うれしかったです。
――覚悟を決めたというのは、どんな理由からだったんですか。
佳史扶 僕は小学4年生でスクールに入ってからFC東京に関わらせてもらっていますけど、FC東京の6番といえば、サイドバックで、チームの中心で、日本代表、というイメージが強かった。自分がトップに上がってからもそうで、自分の中ですごく大事な、特別な番号でした。
だからこそ、あまり形から入るのが好きではないんですけど、自分なりの覚悟というか、自分もそういう選手になりたいという気持ちを持って決断しました。
――負傷の影響でおよそ1年もピッチを離れていましたが、「6 KASHIF」の公式戦でのお披露目は6月18日、ツエーゲン金沢との天皇杯2回戦になりました。
佳史扶 ロッカーに入ってユニフォームがかけられていて、それを見たときに慣れないなと思いつつも、実感がふわっと湧いてきたんです。試合中は気にしていなかったけれど、試合後に写真を見て、あ、6番だったんだ、って。いまはようやく慣れてきましたけどね。
――背番号6の「先輩」である小川諒也選手との勝負、楽しみでしょう。
佳史扶 もちろん、ベースはチーム対チームなので、試合に勝つことが一番です。諒也くんとはポジション柄、逆サイドになるのでなかなかマッチアップはできないですけど、すごくいいクロスが入ってくるイメージがあるので、僕もディフェンスの選手としてしっかり注意しなければいけません。
それも含めて、すごく楽しみな気持ちのほうが大きいんですよ。負傷で離脱していた間にも諒也くんとは連絡を取っていたので、いまでも僕の中では大切な先輩で、兄貴分で、すごく尊敬しています。
――プレー面ではどんなところで勝負したいですか。
佳史扶 諒也くんのクロスからは失点したくないですね。逆に僕のクロスから点が入ったら最高!
――お互いに左足のキックが素晴らしく、ゴール前への鋭いクロスで決定機を作ります。つまり、守るときには自分の守備範囲に飛んでくるわけですものね。
佳史扶 そうなんです。そこはお互いに楽しみな部分ですよね。だから、柏戦(J1第23節)でクロスから目の前の久保藤次郎選手に決められたのは反省しないと。チームとしてうまくいっていたのにあの一本でやられてしまって…。あれは今後に生かしていきたいと思っています。
――その場面はサイドから中央に絞った守備の局面でした。逆に横浜FC戦(J1第22節)で長倉幹樹選手が決めた同点ゴールのシーンでは、右からの橋本拳人選手のクロスに対して、長倉選手の奥に入ってきて自分でも狙える状況を作っていました。サイドでの突破やクロスが持ち味の佳史扶選手が、次のステップに進むキーワードが、この2つのシーンで見せた「中」である気がします。
佳史扶 まさにそうで、クロスに対して逆のサイドバックが入っていくこともそう。あとは、東京にはサイドハーフに遠藤渓太選手や俵積田晃太選手などいい選手がいて、サイドに張って勝負できる。だから、サイドバックが外だけじゃなくて中を取っておとりになったり、内側で「偽ボランチ」という感じでつなぎ役になって、外をフリーにするプレーも求められています。
実はそういうところは苦手ではあったんですけど、アルベルさんが監督のときからたたき込まれてきて、自分の中でいろいろ試行錯誤して、まだ完璧ではないですけど、その楽しさを自分の中で見出せています。だからそういうプレーは続けていきたいですし、自分がサイドバックだから分かりますけど、サイドバックがゴール前まで入っていくとマークがつきづらいので、フリーになってチャンスを作れるんです。去年も右からのクロスに合わせて決めているし(アビスパ福岡戦、京都サンガF.C.戦)、これは続けたいですね。
それで言うと、浦和戦(J1第24節)では長友佑都選手が右サイドバックに入って、そこからどんどん仕掛けて入っていって、2アシストも決めて、あれはすごかった!(下に続きます)

太田宏介、小川諒也から受け継いだ「6」。歴史を背負って飛躍する(写真◎FC東京)
「考えるメンタル」を手に入れた
――「中」でのプレーについては、高宇洋選手が以前、佳史扶選手が積極的にアドバイスを求めてきてくれる、と喜んでいました。
佳史扶 もうなんでもヤンくん(高)に聞きにいってましたね。同じサイドで組むボランチだからということもありますけど、ヤンくんは本当に言語化が上手で、プレーしながら話すとすごく納得できる。試合中でも自分がすぐに修正できるように伝えてくれるんです。いまでも、細かくプレーについての「答え合わせ」をしています。
――長友選手の名前も出ましたが、室屋成選手、白井康介選手もいて、ハイレベルなポジション争いが続きますね。
佳史扶 僕以外はみんな両サイドでプレーできる選手ですし、いままで一度も、自分のポジションが約束されたことがまったくありません。その競争は本当にありがたくて、すごく楽しいですね。いい競争がずっとできているから、この中でスタメンを取れたらもう、Jリーグで一番のサイドバックだと言えるぐらいです。
ただ、焦らず、ですね。まだケガから戻ったばかりなので。とはいっても、負ける気はないですし、どんどん追い越していこうと思っています。
――彼らより秀でてる部分はどこにあると自己分析しますか。
佳史扶 サイドでのアグレッシブさやクロスの質、それにドリブルで抜け出していく、という攻撃のレパートリーの部分ですね。逆に守備のところでは、1人で2人を止めて守れるかどうかというところでは、やっぱり佑都さん、成くん、康介さんにはまだ及ばないと痛感しています。そこは改善していかなければいけない。
成くんとは練習でもマッチアップすることが多いんですけど、寄せてくるだけじゃなくて、その先の奪いきるところまでがすごくて、そのためにもう1メートル寄せてくるとか、細かいところですけどそのインテンシティーの高さはすごいと感じています。
――佳史扶選手も体が大きくなったように見えますから、強さでは対抗できるのでは?
佳史扶 1年もピッチを離れていたので、ずっと筋トレしてました(笑)。一度はちょっと大きくし過ぎて体が重くなってしまって、でもいろいろと調整して、いまは落ち着いています。数値的にも問題ないし、筋肉量もいい感じに仕上がってきて、まだもう一歩の足が出ないところもあるのでもう少し絞りますが、この大きくなった体でそういう動きができるようになれば、もっとすごい選手になれると思っています。
――長かった負傷離脱の期間で得たのはパワーアップした筋肉だけではなくて、メンタルにも変化が生まれたように感じます。以前「強くなった」と話していましたが、どういう種類の強さを実感していますか。
佳史扶 試合中の「負けない!」というシンプルな強さはもちろん大事ですが、何か良くないことが起きたときに、その物事に対してどう自分の中で受け止めて、次の行動に移すか、という「考えるメンタル」の強さは、この1年間で本当に高まったと思います。いつ治るか分からないケガで、復帰間近までいきながらまた最初に戻って、ということを何回も繰り返していたので。
――その心の変化が、ピッチの上ではどう生かされていますか。
佳史扶 スタンドの上から1年間、試合を見ることができたこともすごく大きくて、その経験も合わせて、試合中にうまくいかない時間にも、焦れずに一歩引いて自分の動きやチームの流れを見ることができるようになったと、復帰してみてすごく感じました。
――松橋力蔵監督も復帰初戦の前に、佳史扶選手の目を見て感慨を覚えたと話していました。みんなが待っていた復帰でしたね。
佳史扶 監督にはキャンプのときから定期的に声をかけてもらっていて、一番ありがたかったのは、「力があるのは分かっているし、一番プレーしたいのは佳史扶だということも分かってるから、いつまでも待っている。焦らずに、まず治すことだけに集中してほしい」と言ってもらえたことです。
ちょうど、キャンプで復帰できる可能性があったのに、それがなくなってしまった直後のことでした。リハビリして積み上げてきたものが崩れてしまったという思いがあったときで、本当につらいときにそういう声をかけてもらったのがすごくうれしかったですし、もう一度、頑張ろうという気持ちになりました。
――そんなたくさんの人たちからの刺激を糧にして成長するその先に、選手としては日本代表を見据えていくと思います。2023年にはデビューを果たしていますが、7月のE-1選手権からも刺激を受けたのではないですか。
佳史扶 まだ復帰したばかりだったこともあって、完全に佑都さんとタワラ(俵積田)を応援してました(笑)。あとは、普段、Jリーグで戦っている身近な選手が代表のユニフォームを着て活躍しているのはものすごい刺激になりますし、基準にもなる。でもだからこそ、いまは焦っちゃダメだという思いもあります。
もちろん、いずれはそこでプレーしたい気持ちもあるので、そこから逆算したときに、いま自分がやらなければいけないことにどれだけ集中することができるか。そこを見据えて行動していかなければいけないと、E-1を見て改めて思いました。
佑都さんは中国戦ではプレーしたことのない3バックの左で出場して、帰ってきて浦和との試合では右サイドバックで2アシスト。どういう状況でもブレずにやり続けて結果を出すって、めっちゃくちゃかっこいいですよね。自分もそういう選手になるには、普段からそういう行動を取らなければいけないと改めて思いました。
――同じように「かっこいい」姿を、まずは小川諒也選手との対決で見せつけてください。
佳史扶 はい、頑張ります!

