上写真=山田新(中央左)とともに、高井幸大が「多摩川クラシコ」の勝利の立役者になった(写真◎J.LEAGUE)
■2024年8月11日 J1リーグ第26節(@味スタ/観衆37,452人)
FC東京 0-3 川崎フロンターレ
得点:(川)山田新2、高井幸大
「やっぱり自分はまだまだ」
淡々と、ひょうひょうと。パリ・オリンピックを経験しても、そこは変わっていなかった。川崎フロンターレの若きセンターバック、高井幸大はFC東京を破った一戦を「(失点を)0点に抑えることができたところと、1点取れたところが楽しかったです」と朴訥なまでに振り返った。
今季自身2点目となるゴールが、大きく勝利を引き寄せている。2-0で迎えた72分、三浦颯太の左寄りからのFKにダイビングヘッドで豪快に合わせてリードを広げた。
「いいところに選手の間に入ることができて、(ボールを)枠に入れることだけを意識して打ちました」
そのまま地面にうつ伏せになると、上から山田新が乗っかってきて、しばらく押しつぶされたままで喜びを味わった。
ただ、このゴール以上に頼もしかったのは、本職の守備だ。センターバックとしてクリーンシートを記録したディフェンスの局面では、プレーの端々に見せた余裕が凛々しかった。
それがパリ五輪で得た経験値のおかげだとするのは短絡的に過ぎないとしても、25分の守備は圧巻だった。
向かって左斜め前に裏抜けしてきたディエゴ・オリヴェイラをしっかりと追いかけて、スライディングして右足でブロックしたシーン。相手のシュートに一か八かで足を伸ばした、というよりは、相手の動きを見極めて、シュートを打ってくるのを待ち構えてからまんまとそこに引き込むようにして足を合わせてみせた、という余裕が感じられた。
「最後に体を張るところはディフェンダーとして一番大切なことだと思うので、出せてよかったです」
とまたも平然と話し、完璧なタイミングでのスライディングも「たまたま当たっただけです」と自画自賛の気配はなし。本当にたまたまだったのか、それとも実は狙い通りだったのを謙遜しているのか、ポーカーフェイスの奥の本音はなかなか見通せない。
それでも、やはりオリンピックでの刺激がないわけはなかった。準々決勝でスペインに敗れることになったが、相手のセンターバック、パウ・クバルシはバルセロナに所属する17歳。今回のU-23日本代表では19歳で最年少だった高井よりも年下の選手が、世界の一流クラブで手にしたプレーレベルを披露する現実を目の当たりにした。
「守備でも攻撃でも質の高い選手がいて、いろいろな勉強ができて、ちょっとプレーを真似したりとか、 さらに自分が成長するためにいろいろなことを意識してやりました。(スペイン戦では)相手のセンターバックは試合中も上手だなと思いながら見ていて、盗めるところは対戦して盗めればいいなと。(クバルシは)僕より何歳も下で活躍している姿を見ると、やっぱり自分はまだまだだなって感じるし、もっと成長しなきゃいけないなと思いました」
静かな語り口とプレーの大胆さのギャップで醸し出す「大物感」は、かねてから期待されてきた。それが、世界の強国との真剣勝負で磨かれたのは確かなようだ。
さて、ここからどこまで大きな選手になるのか。それを見届けることのできる幸せがある。