上写真=橘田健人が右サイドバックとしてプレー。鬼木達監督の「攻撃的采配」だ(写真◎J.LEAGUE)
■2024年3月9日 J1リーグ第3節(@U等々力/観衆20,757人)
川崎F 0-1 京都
得点:(京)川﨑颯太
「全部が悪いわけではない」
京都サンガF.C.をホームに迎えたJ1第3節で、橘田健人が右サイドバックとして出場した。そのこと自体に驚きはなかった。過去にもこのポジションでプレーした経験があるからだ。
驚きだったのは、そのふるまいである。
「ビルドアップのときにより真ん中でいい距離感でできるように、形を変えながらやっていこうという狙いで、中に入ってプレーすることを求められました」
多くの時間、アンカーに入っていた山本悠樹の右隣にいた。いわゆる「偽サイドバック」としてサイドバックが中央に立つ戦術はよく知られるところだが、この日の橘田を見ていると、むしろ本来がボランチで、ときおり右サイドバックになる「偽ボランチ」と呼びたくなるほどだ。
「自分が中に入って悠樹くんといい距離感でやりながら、そこで数的優位を作って、相手の中盤が前に出てきたところで速い攻撃を狙ってやりました」
鬼木達監督はほかに、GKに上福元直人を、センターバックの一角に丸山祐市を起用する変化も加えている。橘田を右サイドバックにコンバートしたことも含めて「攻撃のところでしっかりとマイボールの時間を増やす」ことが目的の一つとした。そんな「攻撃的采配」の中で、橘田のプレーを高く評価した。
「本人のプレーも良かったと思いますし、プラスしてチームに与える影響も非常に貢献してくれていました。意図的にいろいろなプレーが、彼だけではないですけど、いろいろな選手を通じてできていたところもあると思います」
マイボールになれば、橘田はアンカーの山本と右インサイドハーフの脇坂泰斗により近い場所にポジションを取った。これで、パスセンスに優れる山本が前を向いてフリーでボールをさばける回数が多くなった。脇坂との距離も近くなって、右ウイングの家長昭博との三角形でボールを動かして京都を押し込んだ。試合前々日から練習しただけで、特別なタスクをスムーズにこなしていった。
ただ、難しさもあった。川崎Fの4バックに対して京都は3トップ、つまり自分のサイドには左ウイングの平賀大空が常に立っていた。後半にはここにマルコ・トゥーリオが入ってきた。どこかでパス回しが引っ掛けられれば、背後のスペースはがら空きだ。そのリスクは百も承知だった。
「ポジションを空けてしまう分、取られたときは難しい部分はあったんですけど、しっかりコミュニケーションを取りながら、 そのまま自分が切り替えたり、あるいはそのまま真ん中に残ったり、素早く変えていくところはチームとしてしっかり話し合ってうまくいったので、 そういうところは続けたいなと」
そもそもがボランチの選手で、しかも豊富な運動量で幅広いエリアを制圧するタイプ。大きく動きながら攻めて守るのは、むしろ得意なスタイルだ。
だが、ゴールだけが遠かった。79分の交代策によって3バックとなり、橘田はボランチに入って1点を目指したが、結局0-1で敗れて早くも連敗と、苦しい序盤になった。
ゴールを奪うことから逆算してチームを組む鬼木監督の考え方からすると、「右サイドバック橘田」はスクランブル戦法なのか、あるいは新しく魅力的な選択肢なのか。
「全部が悪いわけではないので、今日実際うまくいってたシーンもありますし、そういうところは引き続き続けながら、次の試合まで1週間あるので、チームとしてもしっかり準備したいなと思います」
橘田自身は、どこでも、どんな役割でも準備はできている。