上写真=山田新の先制ゴールを喜ぶ川崎Fの選手たち。鬼木達監督は「いまいい方向に向かっている」と自信(写真◎J.LEAGUE)
■2023年9月24日 J1第28節(@国立競技場/観衆54,243人)
湘南 0-2 川崎F
得点:(川)山田新、レアンドロ・ダミアン
「リアクションにならずに済んだ」と脇坂
どんな相手にも自分たちのスタイルを貫いて勝ち続ける。
誰にとっても理想はそこにあるだろう。2020年シーズンや2021年シーズンの川崎フロンターレは、圧倒的に攻めて、ゴールを奪い続け、勝利を積み重ねてJ1連覇を遂げ、その域に限りなく近づいたチームだった。
もちろん、どんなチームにも紆余曲折はあり、川崎Fはいま、リーグ中位に甘んじる立場である。グループステージが開幕したAFCチャンピオンズリーグ、準決勝に進出している天皇杯と並行して戦いながら、J1でももちろん愚直に勝ち点3を追い求めている。
鬼木達監督は第28節の湘南ベルマーレ戦で、代名詞の4-3-3ではなく3-5-2のシステムを採用した。試合後の会見では、3バックで臨むのは事前に決めていたこと、5日前にマレーシアでACLの試合を戦ったことでぎりぎりまでコンディションを見極めながらメンバーをセレクトしたこと、そしてそもそもこの布陣を採用したのは「自分たちのストロングと相手の兼ね合いで、システムを含めて有効と判断した」からだったことを明かしている。
つまり、湘南の3-3-2-2という並びを強く警戒して、まず立ち位置で対応するため、ということだ。昨年は湘南にダブルを食らっていて、今季のホームゲームも何とか1-1で引き分けに持ち込む流れで、1分け2敗と分が悪い。
3バックにしたことで、右の山根視来と左の瀬川祐輔がウイングバックとして張り出す。そこがまさに湘南のストロングポイントの一つで、瀬川が石原広教と、山根が杉岡大暉とマッチアップするホットエリアになった。
3バックとウイングバックで5人を割き、最前線に2トップを並べると、広いスペースを担当する難しさがのしかかったのが、MFの3人だ。中央に橘田健人、右に脇坂泰斗、左に瀬古樹というのが基本の並び。カバーするエリアが広くなっても、推進力と運動量に定評のある3人だから、脇坂はよく心得ていた。
「ボールがサイドに入る前から、自分が行くのか、ウイングバックが行くのか、それともフォワードに行かせるのかは声かけができていて、その分、リアクションにならずに済みました。確かにきついけれど、問題なくできましたね」
立ち位置が変われば、ボールにアタックに出る距離や角度が微妙に変わってくる。必要なスタミナを「言葉」で補っていたということだ。
布陣変更のメリットは、実はここにある。鬼木監督は強くうなずくように説明する。
「システムを変えたり変化を起こしたときには、やっぱり会話が増えます。コミュニケーションが増えます。それがエネルギーになっているのかなということはありますね。守備の仕方も攻撃のやり方も含めて、エネルギーというものが自然と出ていて、それがいまいい方向に向かっていると思っています」
夏には3連敗を含む6試合勝ちなしと苦しんだ。停滞が見え隠れするチームに刺激を入れるには、改善へ向けて意思を整えることが大切になる。だから、布陣変更は手段の一つであって、目的はチームを力強く前に進めることなのだ。これが鬼木流マネジメントの妙である。
目的は、その先にもう一つある。結局は、ピッチで何ができたか、ということだ。それは脇坂の言葉を借りてみる。
「今日は3枚で守りましたけど、4枚になっても自分たちの追い方にバリエーションができます。外を切って一度中に通させてから追い込むことも、まず中を切ってからサイドに追い込んでいく守備も、オプションとして増えていきます」
まずはカードを揃えること。そしてそのカードを適切に切っていくこと。脇坂は続ける。
「いまはゲームでこれをやろうと決めていますけど、瞬間瞬間で、 ピッチの中で追い方を決められるようになるともっともっと良くなります。相手によって変えたり、さらには一つひとつのプレーで追い方や追い込む場所を整理してやっていければ」
まだ、ものになっているわけではない。しかし、3バックで戦って勝利をもぎ取ったことで、変容への扉を一つ開いた確かな感覚がある。脇坂の言葉はそれを示しているだろう。