上写真=堀米悠斗は復帰戦を「すごく楽しかった」と実感していた(写真◎J.LEAGUE)
■2023年8月5日 明治安田生命J1リーグ第22節(@国立競技場/観衆57,058人)
名古屋 1-0 新潟
得点:(名)森下龍矢
「テンション高くプレーできました」
頼もしいキャプテンがアルビレックス新潟に帰ってきた。堀米悠斗が名古屋グランパス戦の61分に登場、6月24日の柏レイソル戦以来、6週間ぶりに公式戦のピッチを踏み締めたのだ。
「個人的にはすごく楽しかったですし、両チームのサポーターが作り出す雰囲気にうまく乗せられて、テンション高くプレーできました」
前回の柏戦も負傷から復帰した試合だったが、途中出場で14分間、プレーしたところでまたもや負傷交代している。だから実際には、フル出場したガンバ大阪戦の5月28日以来、およそ2カ月ぶりといっていい。そんなブランクが嘘のような軽快なフットワーク、そして受けてさばく堀米ならではのパスのリズムに、新潟のあるべき姿を感じた人も多いだろう。
それはもちろん、堀米自身の意識の投影である。1点のビハインドを取り返そうと、いつもの左サイドバックのポジションから攻撃のテンポを変えにいくことにフォーカスした。
「レイソル戦も復帰というにはほど遠い時間だったので、約2カ月、離脱していましたけど、 自分の存在価値というか、攻撃のところでテンポを上げていくところは表現できたんじゃないかなと」
じっくり押し込んでサイドを起点にして、ショートパスのコンビネーションで、あるいは意外性のあるくさびのパスで相手の裏をかくのが真骨頂。それは間違いなく、堀米不在の間に物足りなかったエッセンスだ。それをピッチで描くことができた実感は、確かなものだった。
ただそれも、あくまで個人の領域の話。キャプテンとしては、自分の力でチーム全体のパフォーマンスアップをもたらすことができなかったことを悔やむ。
「(相手陣内の)3分の1のところまで持っていくのは、前半からできていました。ただやっぱり、その先のアイディアとか精度、チャレンジする勇気が、やっぱりもう少し足りなかったのかな、というのは90分を通して感じています」
理想のゴールのイメージ
松橋力蔵監督は「背後」と「手前」という言葉で、名古屋攻略の狙いの一つを説明している。守備ラインの裏を狙いつつ、抑えられたら今度はその手前にできるスペースを活用して、今度は背後を…という主旨。だが得点を奪えず、その使い分けに課題を残した、という見立てを話した。
それは、ベンチから見て、そのあとにピッチで実践しようとした堀米も同じ考えだ。
「前半はやっぱり背後への動きが足りなかったな、と。相手のラインも高かったですし、前の選手が動き出しているのを見つけられずにやめるプレーもすごく多かった。もちろん、外からだと、簡単に俯瞰で見ることができるので見つけやすいんですけど。だから、入ったときにはそこを狙いたいなと思ってました。かなり押し込むことができていましたから」
そんな外からの気づきを、ピッチの中に落とし込もうとした。
「僕が入ってからの時間は、背後を狙うというよりも、その手前。間で受けた選手がすごくいい状態だとドリブルで運んで、行けるとこまで運びたい気持ちはあると思うんです。でも、そのタイミングで背後を取れれば、さらにスピードアップできるな、と」
名古屋が背後のスペースを厳しく監視していたことで、手前で勝負することが増えた。でも、それでも背後を狙うチャンスはあった、という反省だ。その思いを導く、一つの具体的な理想像がある。
「横パスで手前を取ったところから斜め、という、札幌戦の得点のようなイメージで突破できればよかったかな」
前節の北海道コンサドーレ札幌戦で53分、右サイドから高宇洋が内側に横パス、星雄次がワンタッチで裏に送り込み、走り込んだ藤原奏哉が中央へ、鈴木孝司が相手の前に出て右足でプッシュした、流れるような決勝ゴールのことだ。横パスで「手前」を攻略しつつ、縦パスで一瞬のうちに「背後」を陥れる納得の一発。
だが名古屋戦では、この「手前」と「背後」の出し入れに苦労した。ここにも、J2優勝チームがJ1でもがく現実がある。
これで初の連勝を逃し、6勝6分け10敗となった。だが、敗れてもなお、キャプテンの帰還によってチームに再びしっかりとした軸が定まったのも確かだ。
「でも、(新井)直人もいい活躍をしているので、ポジション争いも楽しみながら、みんなで高めていければと思います」
堀米不在の穴を埋めた好調の新井直人は、この日は出場停止。キャプテンとして、新潟のパススタイルの象徴的存在として君臨する堀米ですら、ポジションは確約されているわけではない。
でも、それこそが新潟の、未来につながる本当の強みなのかもしれない。