上写真=伊藤涼太郎はFC東京戦で見事にFKを直接決めて、今季6点目を挙げた(写真◎J.LEAGUE)
「つぶしきれなかったのがすべて」
アルビレックス新潟はJ1第9節で鹿島アントラーズに、10節でFC東京に敗れて、J1昇格後2度目の連敗を喫している。もちろん、二つの試合に細かな違いはあるものの、それぞれ4分、8分と早い時間に失点し、無理に出てこなくてよくなった相手に4-4-2の強固なブロックを敷かれて、自慢の技術のつながりを厳格な守備で断ち切られている。
FC東京戦では出足鋭く立ち向かい、翻弄するようにボールを動かして序盤から押し込んでいた。しかし8分の失点は、そんな好リズムから一転、パスが引っ掛けられて一気に高精度のカウンターによって沈められた。ボールを失ってからたった13秒の出来事だった。
左サイド深くまで入り込みながら、伊藤涼太郎のパスが小泉慶に渡り、すかさず仲川輝人へと縦に入れられた。トランジションが生命線の新潟だ、ここで堀米悠斗が思い切ってアタックしたのだが、仲川に巧みに反転され、受けた渡邊凌磨に持ち運ばれ、仲川に決められた。
「自分があそこでつぶしきれなかったのがすべてかな」
堀米は悔やむ。
「前半の入りからかなりチームとしてインターセプトが多くて、 いい守備からいい攻撃に移ることができていたので、あそこは蹴り出すよりは奪い切りたかったんです。だから、ちょっと欲が出たというか…。 強く当たってファウルになったり、もしくは蹴り出してしまえば、相手の攻撃は切れていたと思います。でも、やっぱりつなぎたい思いがあって、中途半端な守備になってしまったなと。0-0だったので、もう少し堅く、相手のカウンターを止め切るという判断が必要だったなと思っています」
神妙な面持ちで振り返ったが、この言葉から二つのことが分かる。新潟はJ1でも何かに迎合することなく、つないで崩す意欲を失っていないこと。一方で、その意欲を最大限に引き出すためには、時として「つながずに切る」という判断を用意し続けるべきだということ。
相反する主義のように見えながら、どこかで通底しているのは、松橋力蔵監督が「理念は捨てず、でも手法は柔軟に」と言い続けている通りである。
「三戸ちゃんにはここで乗り越えてほしい」
連敗中に奪ったゴールは、FC東京戦の12分に伊藤涼太郎がFKから直接決めた1点のみ。伊藤は「キーパーが壁の方に動く」というスカウティングの情報を頭に入れていて、「相手のキーパーから、ボールが見えるか見えないかぐらいの高さで、うまく狙えました」と低めのコースでゴール右に丁寧に流し込んだ。納得の一撃ではあったが、これだけでは寂しい。
そんな攻撃については、FC東京に敗れた試合後の松橋力蔵監督の言葉が重い。
「良い攻撃ではなく、怖い攻撃にならないと。回数もそうだし、決定機でシュートをしっかり打つこともそう」
うまいけれど、相手に脅威を与えられない、というのが、テクニカルなチームが陥る罠であることは歴史が証明している。それを飛び越えて先に進むためには、成長して上回るしかない。例えば、三戸舜介。
U-22日本代表にも選ばれるドリブラーは昨季のJ2で飛躍を果たし、今季も10試合中、9試合に出場している。だが、まだゴールはない。キャプテンの堀米は、同じサイドでコンビを組む背番号14の悩みを、ともに解消していこうという思いを強める。
「三戸ちゃんに相手のサイドバックとの1対1を作ってあげることはできていたと思います。でも、自分がもっと高い位置でサポートしてあげることで2対1になれば、確実に突破できます。三戸ちゃんにはここで乗り越えてほしいという思いがあって、もう少し自信をつかむまでは、全体で人数をかけて再度崩しきるという成功体験を多く積ませてあげたいな、と今日は特に思いました。今日のように高い位置でどんどんサイドハーフをサポートしていくことが大事になります」
これは「三戸ちゃん」をほかの選手に当てはめても同じことだ。人数をかけて、サポートして、崩し切る。そして打つ。それがまず、次の横浜FC戦で問われることになる。
「そのパス1本が通っていたら」
J1の2・3月度の月間MVPに選ばれるなど、一躍スターダムにのし上がった伊藤涼太郎には、攻撃における確かな実感がある。
「(FC東京戦でも)自分たちでボールを握る場面も多かったし、うん、手応えはありましたね」
ただ、昇格チームとしては、J1のクラブとの差をしっかり分析することも必要になる。
「自分たちのボールになりそうなところで相手のボールになったり、そのパス1本が通っていたらチャンスになるようなところでミスがすごく多いので、修正しないといけない」
改善点が明確なのは、方向性に迷いがないことの裏返しでもある。いわば、健康的反省。
「土台のところはあまり変えなくてもいいのかな。いままで自分たちが積み上げてきたスタイルは絶対に崩しちゃいけないと思うし、結果が出ないときこそ自分たちのスタイルを信じ抜くことが大事です。去年も開幕5試合ぐらいは本当に勝てない時期があったので、いま2連敗してますけど、自分たちを信じて、自分たちのサッカーを信じて、新潟の選手として本当に一体となって戦うだけかなと思います」
だから、口癖のように「もっともっと練習」と繰り返すのだ。
「選手一人ひとりのポジショニングやパスで打開していくところは、J1でも通用すると思います。あとは本当にゴールをネットを揺らすか揺らさないか、 シュートを打つか打たないか、逆に点を取らせない、シュートを打たせない、そういう際のところのクオリティーがJ1は本当に高い。もっともっと修正するところはあるし、もっともっと練習しないといけないと思いました」
その練習の成果を、5月3日、横浜FCとのアウェーゲームにぶつける。一緒に昇格してきた「同期の華」だが、昨季の敵地での一戦は0-2で敗れている。しかも今季はまだ、相手に勝ち星がない。並々ならぬ意欲で向かってくることは明らかだ。
こちらも3連敗は許されない。スタイルを貫いて、勝って、リベンジとリスタートを達成しなければならない。