上写真=鬼木達監督は名古屋戦に向けて思うところはありながらも、ピッチでは「影響されてはいけない」(写真◎スクリーンショット)
「話をしていいものなのかどうか葛藤も」
「私たちはJリーグに所属していて、優勝することもそうですけれども、魅力あるものを見せようとしています」
「リーグを良くしていくという意味で、当事者としては声をあげるべきなのではないかと思って、監督という立場として言わなければいけないことは言っていこうと思います」
川崎フロンターレの鬼木達監督は、じっくりと言葉を選びながら、しかし声に強い意志を込めて語った。
9月14日のアウェーでの名古屋グランパス戦は、7月16日に開催する予定だったものの、名古屋が新型コロナウイルス感染症の影響で活動停止となって延期になった試合。ところが、のちに保健所から活動停止を指導された事実がなかったことが判明、Jリーグは「公式試合の日程遵守義務を安易に回避したのではないかとの疑念を内外に生ぜしめたもの」として、8月30日に裁定委員会の諮問によって、名古屋にけん責と罰金200万円の懲罰を決定していた。
鬼木監督は苦しんだ胸の内を明かす。
「多くの方からこのままでいいのかと声をかけていただいたのですが、当事者にならないと声をあげられないというか、そういう方も声を届けたくても届ける方法がありません。もし自分が第三者だったら、そういう感じなのかなと思って終わりにしてしまうことかもしれない。そうやって、なんとなく流れていくことは、自然なことかもしれませんが、でも私たちはJリーグに所属していて、リーグを良くしていくために、当事者として声をあげるべき立場だと思いました」
改めて名古屋戦を迎えるこのタイミングだからこそ、口にすることを決意した。
「正直な話をすれば、到底納得のいくものではありません」
「納得がいかないのは、自分たちがコロナで苦しんでいる中で選手たちは少ない人数でも戦ってきたわけで、そんな選手たちに自分から説明することが難しい状況だったことです」
さまざまな感情が渦巻く中で、情報が限られたままで裁定が下ったために、選手が納得できるように説明できない結果になったことを、監督として最も悔やんでいるという。川崎Fもコロナ禍に見舞われて、例えば7月30日の浦和レッズ戦はベンチメンバーが5人のみ、うちGKが3人という状態で臨んだ。1-3で敗れる結果になったが、リーグを止めないことをクラブの方針として掲げてきたからだ。
「最初に裁定結果が出たときに悩んだのは、選手にどう説明したらいいかということでした。自分たちは浦和戦を少ない人数で戦いましたが、そこで変なやり方をして試合を飛ばしたりすることはできません。だから、選手には今回のことを説明するのは難しかったです」
試合前日のミーティングで、選手には改めて思いを伝えるつもりだという。
「選手には、やることは変わらないのでしっかりと戦うことが大前提で、3連覇を目指すことはむしろ一番ぶれてはいけないことなので、影響されてはいけない、と話すつもりです。ただし、立場として言わなければいけないことは言っていきます」
もちろん揺れる気持ちもあって、「私の言っていることが正しいかどうかもわかりませんし、チームにプラスになるかどうかと思うところもあります」「一監督がこういう話をしていいものなのかどうか葛藤はありました」と正直に明かしたが、「だからこそ言わなければいけないことを言うのは、自分の仕事なのかと思って話しました」ときっぱり。
「もちろん、戦いたくないということではありません。感情はいろいろありますが、しっかり押し殺してゲームに集中するのが大事。そこは自分の中でも冷静に戦いたい」
直近のサンフレッチェ広島戦は上位決戦として注目されたが、4-0で圧勝して地力の差を見せつけた。この勢いを切ってはいけない。
「ボールゲームなので、ボールをいかに持ってコントロールするかを重要視していて、最終的にゴールに向かい続けた回数について評価しています。ボールを握ったことではなくて、握りながら相手の狙いを外したことについてですね。これを続けていきたいですし、エラーも出るかもしれないけれど、自分たちらしく貫いていきたい」
さまざまな意味を含めて、名古屋戦は本当に重要な90分になる。