上写真=脇坂泰斗、吠える。リードを広げるゴールのほか、理知的なプレーが冴えた(写真◎J.LEAGUE)
■2022年9月10日 J1リーグ第29節(等々力/20,873人)
川崎F 4-0 広島
得点者:(川)家長昭博2、脇坂泰斗、知念慶
「相手が一つに絞れないようになっていった」
川崎フロンターレがサンフレッチェ広島を寄せつけなかった90分で、2ゴールの家長昭博が立役者。だが、こちらも忘れてはいけない。脇坂泰斗である。
家長昭博の先制ゴールで1-0と折り返した後半、その勢いを加速させたのは59分に決めた脇坂の3試合ぶりのゴールだった。
右サイドの広島のスローインからのボールを奪ってジョアン・シミッチ、家長、知念慶とつないで中央の橘田健人が前に運んで左へ、マルシーニョがワンタッチで中央に送ると、ゴール前の狭いエリアで脇坂が受けた。冷静なターンから右足できっちりボールをたたいて、左ポストに当たったもののゴールにねじ込んでみせた。そして、吠えた。
66分には高い位置でプレスをかけて、中央に入っていた山根視来のところにボールが届くと、脇坂は左手を上げて左前に走り出した。山根からのループパスを引き出すと、胸トラップからボールを一瞬さらし、住吉ジェラニレショーンを誘うようにしてから左足で切り返すと、足がかかって倒され、PKを獲得した。
「まずは意識のところで怖がらずにボールを受けるところから入った」ことが、湘南ベルマーレに敗れてからの1週間でチーム全員が取り組んだことだという。それを身を持って示したのが、この自身のゴールとPK獲得の瞬間だった。ゴール前の最も狭く警戒レベルの高いエリアに入り込み、緊迫した一瞬にも相手を見て冷静に余裕を持ってボールを操ることのできる「目」の勝利だ。
脇坂が家長と並んでチームを引っ張ったのは、この2つのプレーがあったから、だけではない。
例えば、58分の一瞬のテクニック。家長の浮き球のパスを中盤で収めると、相手が寄せてきた方向を見て右足で少しだけボールを遠ざけてボールを送り込むルートを「開拓」し、左前のマルシーニョを走らせたパスがある。マルシーニョがドリブルでカットイン、右の家長にラストパスを送り、シュートはGK大迫敬介に防がれたものの、ビッグチャンスになった。最初に収めたところでそのまま出していたら引っかけられるタイミング。そこで相手をよく見てボールをずらしたことで、一気にチャンスを広げた。
ところで、このシーンで最初に家長が送ったパスは、脇坂の方に背中を向けながら左足を振り上げて、ハイボールで相手の最終ラインとボランチの間に落とすようなボールだった。この「落とす」というのは、鬼木達監督も試合後の記者会見で口にしていた広島攻略のキーワードの一つだった。
「相手のアグレッシブな前からのプレスがありましたが、アグレッシブであればあるほど空くスペースはあるので、そこに人が走っていくこと、ボールを落とすことを意識しました」
その鬼木監督の指示を受けて、脇坂はピッチの上でこんな意識でプレーを表現したという。
「広島さんはボランチから前が連動しているので、後ろの3枚はうちの前の3枚でピン留めすることでスペースができて、そこを使っていくというのは狙いの一つしてありました。そうすると今度はボランチが下がれば、間で受けることができますし、加えて背後を狙う動きもあったから、相手が一つに絞れないようになっていったと思います」
だから58分のシーンはまさに、落とすパスで相手を食いつかせ、そこに脇坂のテクニックを加えてマルシーニョを背後に送り出すという、プランを完璧に組み合わせたビッグプレーだったというわけだ。
内容を伴ったこの大勝が、残り7試合のスタンダードになるだろう。
「まず自分たちに目を向けて、今日のような試合ができるように最善の準備をして、チーム全員が一つになって目の前の試合を戦っていく。そういったことの積み重ねが、今日のように4点を取って無失点で抑えることにつながったので、得失点差でも詰めていけるようにしたい。自分たちができるのは勝ち続けることしかないので、続けていきたいと思います」
これで2位に再び浮上したが、首位の横浜F・マリノスとの勝ち点差は依然、3のまま。残り試合数は同じで、得失点差は9ポイント下回っている。点を取って、勝って、最後まで駆け抜ける。まだ、何が起こるかわからない。
取材◎平澤大輔 写真◎J.LEAGUE