上写真=森谷賢太郎が懐かしのスタジアムで5試合ぶりの先発(写真◎J.LEAGUE)
■2022年8月31日 J1リーグ第20節(等々力/13,923人)
川崎F 4-0 鳥栖
得点者:(川)知念慶、ジョアン・シミッチ、マルシーニョ、大島僚太
シミッチに寄せて、シミッチから離れて
「移籍して初めて等々力での試合だったので、バスでスタジアムに入るとき、バスから下りたときに見えたファン・サポーターの顔つきは懐かしいと思いました」
サガン鳥栖の背番号47・森谷賢太郎は、川崎フロンターレの一員として2013年から18年までJ1で105試合に出場、その後、ジュビロ磐田、愛媛FCと移り、その愛媛を率いた川井健太監督と鳥栖で「合流」することになった。
「試合に入れば、鳥栖のユニフォームを着てエンブレムをつけていますから、鳥栖が勝つためにプレーしました。でも、0-4で負けてしまってがっかりさせてしまって…」
森谷自身は5試合ぶりの先発出場。先発メンバーが発表されたときに、スタンドのぐるっと一周、360度から大きな拍手が鳴り響いた。
「うれしいですし、僕が離れてからもう4年が経っているけれど、覚えてくれる人がいるのは幸せです。すごくうれしい気持ちで、フロンターレからしたら負けたくない試合だったと思うけれど、僕たちが勝って元気な姿を見せられればよかったと思います」
守備ではアンカーのジョアン・シミッチ対策がタスクの一つだった。
「シミッチにボールが入って局面を変えられたり、開放されるのが嫌だったので、マンツーマン気味につくことが決まりでした。それがハマったところもあるし、それでもシミッチはうまいので、局面を変えられたこともあります」
鳥栖はキックオフから4バックにボランチが2枚、左右にワイドアタッカーを置いて、最前線に垣田裕暉が張っているその周辺で、森谷があらゆる場所をつなぐ役割を担った。
「攻撃では逆にシミッチに捕まらないように意識していました。効果的なところもあったけれどゴールにはつながらず、それがなければ自分が出る意味がなくなってしまう」
マイボールになればシミッチから離れてボールを受けて循環させ、奪われればシミッチに寄せてコースを限定していく。しかしこの日は、川崎Fが一枚上手だった。シミッチから逃げても別の場所で封じ込められ、シミッチに襲いかかってもシンプルにボールを動かされてかわされる。30分すぎには3-4-2-1にして森谷はシャドーの一角に入り、後半からはまた4-2-3-1に戻った。
川井監督は振り返って、「こんな試合もある」とむしろサバサバしていた。それは監督だけが思っていることではなくて、「0-4で負けて言うのもおかしいかもしれませんが」と話して、森谷も同じく前を向く。
「僕たちは魅力あるサッカーをしているし、川崎に負けないサッカーをしていると思います。今日はそれを出せなかったけれど、川崎はパスの出し方、相手が来ているからこっちに出そう、という細かいことにこだわっているのを感じました。そこが僕たちに足りないけれど、でも誇りを持ってサッカーをしています。越えなければならない壁ですから、この壁を越えてタイトルに近づきたいと思います」
懐かしの顔ぶれの「敵」として臨んだ初凱旋は、0-4。だが、かつてのホームで得た最大の気づきは、正々堂々と戦った「鳥栖のサッカーへの誇り」だった。
取材◎平澤大輔 写真◎J.LEAGUE