上写真＝酒井宏樹が最後まで走り抜いて、劣勢から同点に持ち込んだ（写真◎AFC）
■2022年8月25日 ACL準決勝（埼玉/23,277人）
全北現代（韓国）2-2〈延長〉PK1-3 浦和（日本）
得点者：（全）ペク・スンホ、オウンゴール
（浦）松尾佑介、キャスパー・ユンカー
「チームとして誇らしい気持ちです」
その瞬間から、あまりよく覚えていないというのだ。
116分に1-2と逆転されたあと、あきらめるつもりはなかった。120分、右サイドで酒井が猛烈に、しかしフェアにスライディングを仕掛けてボールを強奪すると、ダヴィド・モーベルグに預けた。モーベルグはドリブルで前進する。酒井はその外を回ってパスを引き出すと、ゴールラインぎりぎりからファーへクロスを送った。
ボールは一度クリアされるが、大久保智明がボレーシュート、これを明本考浩がヘッドでコースを変えた。しかしGKイ・ボムスが左手一本で防いでしまう。ここまでか、と思った次の瞬間に、キャスパー・ユンカーが右足を振って狭いニアサイドを抜き、同点ゴールを決めるのだ。
「正直、そのシーンを覚えていなくて、でも、ただ負けたくない気持ちだけで走っていました」
酒井は体を投げ出して滑り込みながらクロスを上げたあと、そのままピッチに座り込んで動けなかった。その目の前で、ユンカーが決めた。
「負けたくない」のには、わけがある。もちろん、目の前の勝負に勝ちたい強烈な意欲はもちろんだが、もう一つ。
自分の決断の正しさを、つまりプライドを証明するための戦いだった。
「昨年、マルセイユから移籍してきて、誰一人として、家族も代理人も賛成する人はいませんでした。成功だったかどうかは自分で証明するしかない。そのためにこの大会が必要でした。まだ何も成し遂げていないけれど、決勝に進めたことはすごく大きなことで、チームメートやスタッフに感謝したいと思います」
孤独な戦いだったかもしれないが、まったく孤独だったわけではなかった。
「試合前からタフになるのは予想できたし、実際に日韓対決で熱い試合でした。ただ、勝利をあきらめることなく120分戦った上で、チーム一丸となってもう一つ、次のステージに行けて、チームとして誇らしい気持ちです」
酒井のスライディングから、わずか14秒。転落しかけたチームを救ったビッグプレーに、はっきりした記憶はなくても、仲間への感謝が先に立つ。
「おそらくフィールド上の11人は共有できていたので、ゴールにつながったと思います。本当に決まってよかったという気持ちです」
会見ではマスクをしていたが、目がにっこりと笑っていた。
取材◎平澤大輔 写真◎AFC
