上写真=瀬古樹が初出場の鳥栖戦で存在感。3つのポジションで勝利を目指した(写真◎J.LEAGUE)
「味方の動きを見るのも仕事の一つ」
瀬古樹は、これがラストチャンス、の覚悟でピッチに飛び出していった。J1第14節のサガン鳥栖戦で、今季リーグ戦初出場が初先発。83分まで戦って、アウェーでの難しいゲームで勝ち点1を獲得する力になった。
鳥栖の激しいアクションが、瀬古の万能性を引き出すゲームになった。4-3-3の左インサイドハーフでスタート、前半途中で4-4-2にシフトするとボランチに入って、橘田健人が入った62分からは4-2-3-1のトップ下へと一列上がった。1試合の中で3つのポジションを与えられ、そつなくこなすユーティリティー。ACLでは右サイドバックでもプレーしたから、なんでもできる才能がチームを支えている。
「3つのポジションを一つの試合でこなすには、アジャストするのに時間がかかりますけれど、それは言っていられない。これが最後のチャンスと思ってプレーしましたから」
序盤はともにハイテンポで、行ったり来たりの展開。
「初めのインサイドハーフでは、なかなかゲームが落ち着いていない中だったので、うまく自分を表現できたかわからないですね」
ボランチでは、昨季までの横浜FCでプレーしていたポジションだから、安定感が違う。
「ボランチでは落ち着かせることと安全に前にボールを運ぶことを意識した上で、そのあたりからは徐々にコントロールすることはできたと思います」
鳥栖の強度に対応しつつ、ジョアン・シミッチと横並びになって中盤を整えたことで、ゲームの流れを引き寄せた。
そして、今度はトップ下へ。
「トップ下ではゴール前に関わること、相手を混乱させることを意識しました。何度か自分でシュートも打てたのにパスを選択したところもあって、その質を高めないと勝てるものも勝てないし、今回のような拮抗した試合を勝ちに持っていけない」
そんな「3つの顔」で、納得のいくプレーも多かった。例えば49分だ。中盤のパス交換からドリブルで進ませた山根が、そのまま小林悠とのワンツーで左へ抜けてフィニッシュまで至ったシーン。センターサークル付近で相手の動きの逆を取って山根から縦にボールを引き出しておいて、後ろに回った山根にバックパスすることで相手をはがしつつ、山根を前向きにプレーさせた工夫がチャンスにつながっている。
「味方の動きを見るのも自分の仕事の一つで、視来くんが中に入ってきてくれるのは助かります。カバーしたり、あるいはポジションを捨てていくこともありますが、ピッチ全体を見渡してプレーできるのは僕のストロングなので、そこは納得のプレーでした」
山根を上がらせたから、代わって山根がいた右サイドバックのエリアをケア。攻めながらリスク管理を研ぎ澄ますのも、ピッチを俯瞰するストロングのなせるわざだ。
「対人の強度もよくなっているし、もともと受けるタイミングもいい選手です。ゲームの中で声を出して指示を出すことができたり、自分の意図を声で伝えられるので、そこはすごく強みだと思っていました。非常にスムーズに入ったなと思いますね。まだまだやらなければいけないところもありますが、しっかりと見せてくれています」
鬼木達監督もそんな評価を与えた。また一人、王者に層の厚みを加えるタレントが台頭してきた。