川崎フロンターレはAFCチャンピオンズリーグ(ACL)で敗退して、日本に帰国した。悲願のタイトル獲得を逃した悔しさがチームを包むが、鬼木達監督は自分に矢印を向けて、さらに強いチームを作る意欲にあふれている。先日、他界したイビチャ・オシム氏の思想に改めて触れて、前に進んでいく。

上写真=ACLではグループ2位となったが敗退した川崎F。鬼木達監督は「自分の力不足」と振り返る(写真◎AFC)

「監督としてチームや選手に何を残せるのか」

 ACLの敗退は悔しい出来事だった。グループIで2位となりながら、今大会のレギュレーションによって5グループの2位チームの中で成績上位3チームに入れずに大会を去ることになった。クラブの悲願のタイトルとして向き合ってきただけに、衝撃も大きい。鬼木達監督は「自分がもっともっと力をつけないと、チームに力を発揮させられない」と自分に矢印を向ける毎日だ。

「とにかく、もっともっと技術をつけさせなければ」という思いに至る。「自分たちの武器で勝負しない限り、勝つ確率は上がらない」からだ。高温多湿、中2日の6連戦、劣悪なピッチコンディション。それを乗り越えるには、「止められなければ蹴ることができない。いい場所が見えていても蹴ることができなければチャンスを作れない」という意志を強く、高く持つことが改めて必要なのだと、アジアの厳しい戦いが教えてくれた。

 そんなときに、元日本代表監督のイビチャ・オシム氏が他界したニュースが舞い込んだ。

「日本のサッカーを、考え方を変えてくださった方だと思っています。オシムさんとは直接、関わったことはありませんが、オシムさんが大事にされていたことを間接的に伝え聞いて、その言葉に刺激を受けてきました」

 いまのこの苦しい状況こそ、オシム氏の言葉が生かされるタイミングかもしれない。

「今回、ACLで負けたいま、やらなければならないことにつながってくるのかなと思っています」

 例えば、いまを生きること。同時に未来を見通すこと。

「監督として目指すべきものにとても共感しました。未来のことを考えていらっしゃることが多かったと思います。同時に、この一瞬を生きなければならない、ということも印象に残っています。監督としてチームや選手に何を残せるのか、それは自分が監督になったときから意識してきました」

 今回のACLでは韓国の蔚山に唯一の黒星を喫したが、失点のきっかけになったのは佐々木旭や橘田健人のパスミスだった。だが、鬼木監督はこのことで「彼らに期待しています」と力強く訴える。

「ミスは誰にでもあります。では、どういうミスだったのか、それが大事です。個人でもチームでもやれることはありましたから、そこは指摘しています」

 何よりも必要なのは、ミスのあとのふるまいだ。

「大事なのは、ミスをしても自信を持ってピッチに立ち続けられるかです。その試合の中でミスを忘れて自分のプレーに集中することは、難しいことだけれど、若手もベテランも関係なく葛藤がありながらプレーを続けます。それができるかどうかですから、これをきっかけに伸びていかないといけない出来事だと思っています」

 この2人に限らず、チーム全体でミスを糧にしなければならない。

「なにかショックなことが起きたときは、大きく成長できるときです。自分も監督になってからずっとそうやってきましたからね」

 数々のタイトルは、ミスから教訓を得て立ち直って獲得したものだ。その鬼木監督自身の経験が、若手を導く道しるべになる。


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