上写真=小林悠が5点目を決めたチャナティップ、絡んだマルシーニョと抱き合って充実の笑顔。自らの貪欲さがチームに刺激を与えた(写真◎KAWASAKI FRONTALE)
「明日、オレ決めるわ」
ACL第4節、勝負のJDT戦。しかし川崎フロンターレは、キックオフから相手のリズムに巻き込まれそうになった。
「前半の最初はうまくいかなかったですけど、点を取ってからは握りながらいい崩しが見られました」
小林悠はそう話すが、点を取ってから、のその直前に、このゲームを左右するプレーがあったのではないだろうか。先制点は14分の脇坂泰斗が素晴らしいFKを直接決めたものだったが、そのFKを獲得した小林のプレーである。
相手のクリアボールを脇坂が素早いトランジションでブロック、それが小林の足元にこぼれてきた。そのままゴール方向に向かうと、相手がたまらず両足で挟むようにタックルしてきてファウル。
「まず守備がはまっていなかったところで、中盤が下がり気味になっていたので、ちょうど前からいこうと声をかけたところだったんです。それでチャナ(チャナティップ)や泰斗が前に出てくれてあのプレーにつながりました。受け身になっているところから勢いをつけたかったので」
足元に収めて時間をかけて周りを使うこともできただろう。だが、小林はゴールに向かうことだけを考えていた。
「チャンスがなかなかない中で、いいところにこぼれてきたのでまず打ちにいきたかったんです。結果的に完全に間に合わないのに相手はスライディングしてきてフリーキックを取れて、それで相手もケガをしたし、ゴールに向かう姿勢がつながりました」
ゴールに向かう姿勢…小林が自分から失われかけていたと気づいたものだった。今季は出番が大幅に減って、出場しても与えられるのはワイドのポジション。センターフォワードとして今季初の先発出場となったこのチャンスを、逃すわけにはいかなかった。
「いい意味で大人にならなきゃいけないのに、悪い意味で大人になっていたというか。僕は怒りや不満をパワーに変えられるタイプなんですけど、自分の中で抑えていたというか、ベテランだし周りのことも考えなきゃ、という気持ちが先行していて、それがたぶんここまで試合に絡めていなかった原因かなと思っていたんです。僕はイライラのパワーをピッチ内でギラつかせて、ゴールへの執着心をぶつけることで生きてきました。それを再確認したので、もう一回、抗っていかなければいけないと思います」
気づかせてくれたのは、中村憲剛のアドバイスだという。悩みが最高潮に達していた3月中旬、中村が電話をくれた。
「憲剛さんもベテランになって上がいなくなってから、なかなか不満やストレスを相談できる人がいなかったようで、つらいよなと話してくれて。年を取ることを受け入れちゃダメだよ、ベテランだからこそ抗っていかないと試合に出るのは簡単じゃない。お前はもっとギラギラして、ピッチに入っただけでなにかをやってくれそうだという目つきがいいところなんだから、と言ってくれたんです。チームがどう勝つかにフォーカスしすぎていたので、昨日みたいにチームのことというよりまず自分のゴールにフォーカスできるようになったのは、憲剛さんのおかげかな」
JDTとの最初の試合となった第3節では出番は5分とアディショナルタイムだけ。だが、そのときからゴールを決められる予感があったのだという。だから、覚悟の一戦で決めた2ゴールも「普通」だったという。
「前回のジョホール戦で少ししか出られなかったけれど、決められる感覚があったんです。それが継続したんですけど、前日には(山根)視来に、『明日、オレ決めるわ』って話していて、これまでもそういうときはほぼ100パーセント決めてきました。だから、今回も決めることができたのは、必然というか普通というか」
31分、家長昭博、脇坂泰斗、山根視来で右サイドを完全に崩してチームの2点目を決めると、43分にはまたも山根の折り返しを右足ボレーできれいに合わせた。このチーム3点目が、小林らしい技術と判断のたまものだった。
「映像で見るより速くてシュートみたいなボールが視来から来たので、足で面をつくって当てるだけで勢いのままいくと思いました。とにかく面をつくることを意識して、あとは感覚です。あのボールならあそこに当てれば左隅にいくなという感覚があったので、ベテランのゴールですね」
第5節は韓国の蔚山が相手だ。昨年はラウンド16でPK戦の末に敗退し、今大会では初戦で対戦して辛くも1-1のドローに持ち込んだ。「蔚山だから、という特別な感情はない」と言いながらも、勝ち点1差で迫ってくる相手を直接倒すチャンス。
「いまなら決められる自信がすごくあります」
だから、願いが一つある。
「できるだけ長い時間、試合に出してほしいですね」