上写真=アシストした脇坂泰斗(左)、決めた山根視来。脇坂は2アシストで逆転勝利に貢献した(写真◎J.LEAGUE)
■2022年3月2日 J1リーグ第10節(等々力/14,696人)
川崎F 2-1 浦和
得点者:(川)家長昭博、山根視来
(浦)岩波拓也
「ハッとしました」
「合わせよう」とばかりしていた自分とは、もうお別れだ。脇坂泰斗は生まれ変わった自分を誇らしく見つめている。
2月23日に横浜F・マリノスに2-4で敗れ、26日に鹿島アントラーズに2-0で勝ってV字回復した。その勢いをさらに高められるかどうかは、この試合にかかっていた。富士フイルムスーパーカップ2022で敗れた浦和レッズが相手。気持ちも入る。しかし、33分にFKから岩波拓也に先制されてしまう。
「前々節のときに、鬼木監督からお前はお前だからと言ってくださって、吹っ切れたというか」
中村憲剛がつけていた象徴的なナンバー、14を今季から背負うが、納得のプレーを見せることができていなかった。だから、その言葉に「ハッとしました」という。
「チームにうまく合わせようと思いながらやっていたのが、自分の良さを出せばいいという思考になって変化がありました」
62分に左CKを高々とファーに飛ばして、家長昭博に届けた。ヘッドでゴール右に流し込む同点弾だ。そして「自分の良さ」を最大限にぶつけたのが、その2分後だった。
左から塚川孝輝が中央にパスを送ると、先に触ると見せかけてうまくボールをさらし、右前にターン。これで柴戸海を突破して、そこから3人を引きずるように加速してドリブルで中央を破った。一度切り返したボールが相手に絡め取られそうになったが、自分の足元にこぼれてきて、右にいた山根視来へ。そのまま左足でゴール左に蹴り込んで、一気に逆転した。
「今日はうまく得点に絡めて、かつ勝利に貢献できてよかったです」
やはり、真骨頂はあの一瞬のターンだ。
「塚川選手が球際で勝って、速くていいボールをくれました。速すぎるわけでもなく、柴戸選手の動きも見えるパスでした」
急きょ、経験のない左サイドバックに起用された塚川のパスの質に感謝するのだった。
「得意のターンでゴールに仕掛けることで相手が食いついたと思って、打とうかなと思ったんですけど、2人が来て、切り返したのがぎりぎりだったのでバランスを崩してしまいました。でも、ボールがこぼれてきて、山根選手がフリーだったのは分かっていたので、打ちやすいボールを心がけて送りました。シュートが素晴らしかったので、ありがたいです」
決めた山根も「泰斗がいいターンをして運んでくれて、僕のところが空いたので、よく見てくれました」と感謝した。
揺るぎない結果を2度にわたって示して、チームに合わせる選手ではなく、チームが合わせる選手になった。新しい脇坂泰斗が生まれた、そんな夜。
取材◎平澤大輔 写真◎J.LEAGUE